38秘密の友人。
激しいひとみで、レオは男をにらみ据えた。まるで、赤目が返事をしてくれないのはこの男が原因だとでもいうように。
「そこをどいて。おれは、赤目に会いに首都まで来たんだ。彼と話がしたい」
それでも男のほうは、いきり立った子供など相手にせず、再びからっぽになった麻袋を抱え直した。
「言ったろ? 赤目はおまえたちの声には答えない」
男は赤目と同じ造形の長剣をかしゃかしゃさせて、レオを押しのけた。その体躯の差に、思わずひるんだレオは、大人しく男を行き過ぎさせてしまった。
「落ち込む必要なんてないぜ」
たくさんの戦利品を吟味しながら、ヒドラが声を投げて寄こした。
「あいつら、いつもそうなんだよ。赤目はもちろん、いっしょに来る連中もまるでオレたちが見えていないみたいに……おっ、これいいな」
ヒドラは小麦の包みを見て、感嘆のため息をもらした。明日はパンを焼こう、とつぶやくのが聞こえる。
「なんだよ」
さらにいら立ったレオは、今度はヒドラを相手に八つ当たりを繰り返した。
「がっかりだよ、なにが子供らの英雄だ。つんつんすまして、嫌なやつら。まるで、領主様きどりのかん違い野郎じゃないか」
思惑以上によく通ったレオの声は、せまい空間で奇妙に反響した。
「落ち着けよ。いいか……」
ヒドラは、薄い唇をそっとレオのほおに寄せる。
「必要以上にかかわり合いを避けるのは、オレたちを危険に巻き込まないためかも知れない……だろ?」
そのままヒドラは、レオの肩に手をのせた。それを払いのけたい衝動に駆られ、レオはいきり立つ。
「落ち着けって。もし、赤目たちが捕まるようなことになったとするだろ? まぁ、そんなこと……夜空の星がひとつ残らず落っこちてくるよりあり得ないことだけど。当然オレたちは尋問されるだろうな。でも、初めから知らなければ、何もしゃべれない。な?」
まるで融通の利かない幼子を説得するようにゆったりとことばを紡ぎ、ヒドラは笑う。それでも、レオの気持ちは収まらない。
「レオ。おまえ、外でスリをやってる連中を見たろう? あいつらの生活はひどいもんさ。やつらに赤目の庇護はない。赤目に守られたオレたちは、とても幸福なんだ」
幸福。養父の宝を思い浮かべた。にじ色の星が刻印されている、あの。思わず胸元に手をやるが、そこにぶら下がっているのは代わりに拾った絵筆でしかない。
「さぁ、彼らが帰っていく。レオ、ちゃんと見送ろう」
ヒドラはすぐに、仲間たちの輪に戻っていった。ようやく気を取り直したレオが顔を上げると赤目の姿はすでになく、麻袋を抱えた男が皆を前に何かたずねている様子が見えた。
「探し物をしている。カギだ。見たものはいないか?」