35大人のいない家。
「行こうぜ。おまえ、なかなか見込みのあるやつだ。みんなに紹介したい」
楽しげに笑い上げるヒドラに続いて狭い路地を進んでいくと、たくさんの少年たちがたむろしているのが見える。ひとりがこちらを向いた。反射的に身構える。
コイツは大丈夫、とレオを指してさも愉快そうにヒドラが笑った。無遠慮な視線を送ってくる彼らの前を、すばやく通りぬけていく。
その先にあったのは、隠れ家にするにはもってこいの古い廃屋だった。
「違う、こっちだ」
昔は何かの店を構えていたのだろう外装に見入っていると、ヒドラの声が呼ぶ。彼は壊れて地面に打ち捨てられた何かの看板を踏みつけて、レオを手招きしていた。
レオが追いつくと、にやりと口元だけで笑い、足をどけてその看板を持ち上げる。その下になわで編んだはしごが見えて、レオも満足そうな笑みを返した。今にも切れそうなはしごを慎重に降りていくと、温水パイプがいくつも重ね合った不思議な空間に出た。
手彫りのあとがうかがえるむき出しの土壁で囲まれた空間は、それでもひと通りの家具がそろえられている。奥をのぞくと、細い通路が続いているようで、同じような空間がいくつも連なっているのが想像できた。
「もうじきメシの準備ができる」
温水パイスに足を乗せて温めながら、ヒドラが言った。
「行くとこないんだろ? 見りゃあ、分かるよ。だったら、好きなだけここにいろ。ここには、うるさい大人はだれもいないから。……なぁ、おまえも捨てられたのか?」
レオは慎重にうなずく。いてもいなくてもどちらでも構わない存在というのは、捨てられたのも同然だ。
「元気出せ。ここにいるのはみんな、同じだ。世の中が荒れているのかねぇ」
妙に大人ぶった言い方がおかしくて、レオは破顔した。
「なんだ、何がおかしい」
不満そうに唇をとがらせたヒドラだが、それでもその目元は笑っている。
「君ってさ、意外と……若い?」
レオは唇をもごもごさせた。
辺りに群がり始めた少年らと比べても、ヒドラはきゃしゃで細い体つきをしている。それをどう表現したらいいのか迷い、微妙な言い回しになった。
「オレか?」ヒドラは、ぐん、とレオを見上げる。唇を引き結び、心外だと言わんばかりにまゆ根を寄せた。
「あ、ごめん。別に他意はないんだ。ただ、おれと同じくらいの歳かなって思ったから」
慌てたレオは、まっすぐにヒドラの目を見つめて言いつのる。
「オレがほかのみんなより……小さく、見えるのは仕方ないんだ。オレ……オレ、違うから。みんなとは違って……」
なぜか真っ赤になったヒドラは、レオのぼさぼさの金髪をにらみ据えた。
「オレ、女だから。みんなみたいに背が伸びないのは仕方の無いこと、だ」
驚いたレオは、しげしげとヒドラを見下ろす。