34仲間と住処。
婦人は肩を震わせて、座り込んでいる。小競り合いを抜け出した灰色の少年が、足元まで飛ばされてきた婦人の荷物のひとつを拾った。
彼はこびり付いたどろを丁寧に払うと、婦人のもとに歩いてくる。
「はい、これ」
そのとき。耳をつんざく笛の音が、辺りにこだました。警護団の男らが方々から駆けてきて、甲高い声音で叫ぶ。
「逃がさんぞ!」
あっという間に地面に組み伏せられ、灰色の少年は持っていた荷物を取り落とした。
「……あいつ」
レオは息をのんで、首を伸ばす。
「違うって、オレたちは盗みはやらねぇ!」
激しく抵抗する灰色の少年を、警護団の男は強い力でいっそう石畳に押し付ける。違う、とレオは首を振った。
「待ってください! おれは初めから見ていました。あの人を襲ったのは、別のやつです。向こうに逃げていきました」
「口からでまかせを……」
レオはしゃがみ込んで小石をつかむと、急いで指を動かした。
「目はこういう感じです。口元はこうで……額に赤い布を巻いていました」
レオは、小石を握って先ほどの少年の顔を石畳に描き付ける。できる限り丁寧に、沼の底のような目を思い浮かべて。
「……あいつか」
警護団の男が感嘆の声をもらした。
「やつは、常習犯なんだよ」
「じゃあ彼の無罪は証明されましたか」
灰色の少年から手を離した男は、レオに目礼すると仲間を引き連れて駆け出していった。なんだよ、と灰色の少年が口元をとがらせる。
「わびもなしか」
それでも満足そうなほほ笑みを浮かべ、灰色のひとみでレオをまっすぐに見上げた。
「おれ、絵は得意なんだ。いつも描いていたからさ……」
急に照れくさくなって、レオは破顔する。
「本当に助かった。オレは、ヒドラっていうんだ。おまえは?」
「レオ。……ねえ君。すごく変わった名前だね。親がつけてくれたの?」
言ってしまってから後悔した。そんなことあるはずがないのに。
「自分でそう名乗ってるだけだよ。オレに親はいないから」
屈託なく笑う灰色の少年を見つめ、レオの胸はちくりと痛んだ。
「オレたちのねぐらに来るかい?」
「でも」
何が不満だ、とヒドラは灰色の髪をかき上げる。