33スリの少年。
困り顔で辺りを見回しても、忙しそうな大人たちは振り返りもしない。
『首都に行きさえすれば、楽な仕事がわんさか転がっているとでも思っているのか? 道行く人が皆、親切に金貨をくれるとでも?』
養父ディゴロのだみ声が、心の中で渦巻いた。
――なんとかなる……いや、するんだ。
なんでもないことさ、とレオは大人たちの列に割り込んで行く。大通りから伸びた先に細い路地があることに気づいたレオは、のぞき込むようにして立ち止まった。
すすけだったレンガの古壁には、たくさんの似顔絵が貼り付けてある。首を伸ばして様子を探り、次第に奥へと足を踏み入れていった。
「たずね人や……賞金首? でも、こんなものでもうまいもんだなぁ」
ジャスパーに贈られた冊子を持ってくるんだった、と後悔しながら人相書きに見入っていると、急激に伸びてきた手がレオの肩を激しくたたきつけた。
「どけ! じゃまだ」
仰向けによろめいて見上げると、レオと同じ年ごろの少年らがいく人も路地から出てきたところだった。
「あっ、待って。聞きたいことがあるんだ」
慌てて追いすがると、少年らは不審げにレオを見やる。
「おれ、赤目に会うために首都に来たんだ。彼の居場所を教えてくれないかな」
唐突過ぎると自分でも思ったが、溢れ出した思いは止められない。
「……オレたちが赤目を売るとでも?」
そうはき捨てたのは、見覚えのある例の灰色の髪の少年だった。
「君はあのときの! ……ねぇ、おれは君に会ったことがある。うそじゃない、君たちが旅人の荷物を運んで……」
「関係ない」
わずらわしそうに片手を振った灰色の少年を先頭に、次々と通りの向こう側に渡っていく。そこには別の少年の一団が待ち構えていて、すぐに小競り合いが始まった。おまえたちなんかに赤目の情報は渡さない、と灰色の少年が叫ぶ声が聞こえきて、レオは肩をすくめる。群集に取り囲まれた小競り合いは、次第に大きな騒動になり始めていた。
ひとり取り残されたレオは、困り顔で立ち尽くす。人ごみを避けて目を滑らせていくと、ちょうど通りをはさんでレオと対に立っている少年に目が止まった。赤い布を額にきつく巻きつけたその少年は、レンガの壁に背を預けている。
「あっ!」
その少年の指先が、馬車から降りたばかりの婦人の荷物に伸びた。まったく抵抗する余裕もなく、婦人は石畳に尻もちをついて悲鳴を上げる。暗い沼の底のような少年の目が、レオを見上げた。思わず身震いするレオを軽蔑するようなままなざしでひたと見据え、少年は走り去っていく。ひとつだけ、またたきをする合間のできごとだった。