32首都。
肌に突き刺さる夜気が、レオの心を重くする。歩いても歩いても、何ひとつ景色は変わらない。苔むした石畳の上にまたひとつ足を踏み出してから、レオは息をはく。
「失敗したな、せめて夜が明けるのを待てばよかった」
肩先で夜気を払って進むばかりが旅ではない。おぼろな月が頼りなく照らす道の先を、レオは遠目に見やった。太い幹に寄りかかり、腰を下ろす。
「この街道を右に進めば、温泉の村。左は首都への道」
――温泉の村には、「彼」がいるはずだ。
レオをだまし、家族のたくわえを奪った旅人の一団が。
「会いに行ってみようか。それとも……」勢い込んでレオは腰を浮かせる。
踏み出した靴先が、惑っている。またたきのひとつもせずに、レオは息を殺した。本性をむき出しにした彼らが、レオに危害を加えないとも限らないのだ。初めに彼に会ったときの様子を思い出し、レオはため息を取り落とす。
「最初からおかしなそぶりはあった」
約束が違う、とがなり立てた街角をねぐらとする子ら。はだしで踏みしめる、泥をかぶった石畳。古ぼけたそで口からのぞく、長い手足。自ら切ったのだろう髪はぼさぼさで、その目元からのぞく鋭いひとみはレオの心を射抜いた。
首都の香りを漂わせた名も知らぬ旅人は、その彼らをどうあしらったのか。
「最初から……あぁ」
初めて客を案内した、という誇らしい気持ちを抱えた翌日。まさか、あんなことになろうとは。
レオは息を止めた。腹の中の空気をすべて吐ききってから、冷たい夜気を吸い込んだ。
「彼らに会いたい」
あの、旅人ではなく。
「左だ」
首都に行き、あの子らを探すのだ。うわさのとおりならば、赤目は彼らの面倒をみているはずだ。ならば必然として、赤目にも会えるだろう。
もう迷わなかった。首都に続く長い石畳を、レオは一気に駆け抜けた。朝もやにけぶる東の空を見上げるころ、ついに首都の街並みが姿を現した。
「あれが……首都」
ひと晩歩きとおしの足はひどく重いが、茶色のレンガ屋根が連なる時計塔を見上げるレオのひとみは輝いている。
ガラララララァァァン、ガラララララァァン。
遠く低くうなる鐘の音が、まだ眠っている街を揺り起こす。目を閉じたまま音に合わせて体を揺するレオの隣を、足早に行き過ぎる大人たち。紋章を掲げた馬車の行き交う大通り。パン屋から漂う香りまでもが上等なものに感じられ、レオは忙しく目を移ろわせた。
「すごい……」
上品な外套を着込んだ一団から、じろじろ視線を送られているのに気づき、赤面したレオはようやく動きだした。