27幸福な朝。
翌日。
レオは寝台に寝転んだまま、いつまでも起き上がることができずにいた。一度わざわざ部屋までやってきて「まだ眠っていてもいいのよ」とつぶやいた母には、「起きる」とだけ伝えた。
それでも、やはり体を起こすことができない。毛布を引っ張って丸くなり、レオは寝転んだまま膝をかかえる。
いつにもまして、眠れぬ長い夜だった。
初めての、独りきりの店番。旅人にだまされて、一家が冬を越すための蓄えを盗まれた。高慢ちきな少年ともやりあった。そして……もう一度、赤目に出会った。
レオの声をまるで聞こうとしない赤目の姿を思い返し、レオはきつく目を閉じる。
「やっぱり赤目は……子供の相手なんて、しないのか」
ほぅっと、深いため息を吐き出してから、レオはゆったりと目を見開いた。
● ● ●
「あら、レオ」
きしむ階段を慎重に下りていくと、母が上ずった声を出す。養父は釜から目を離さないまま忙しそうに動き回っているが、母のコトバによるともう怒ってはいないという。
「朝からずっと忙しいのよ」
ほほ笑む母にうながされて店を見やると、あれだけひまだったはずの居酒屋はたくさんの客でごった返していた。見知らぬ顔も多い。
「なんでも夕べのひどい豪雨がね、街じゅうの屋根をぶち抜いて、下にあったかまどを壊しちまったのさ」
母はまた、笑った。そこに、義妹のマリョーシュカが、接客を終えて戻ってくる。
「都合のいい話よねぇ、お兄ちゃん?」
白いレースの付いたエプロンドレスは、マリョーシュカによく似合う。
「さぁ、レオもお料理を運んでちょうだい」
軽い朝食をとってから、母の言いつけどおりに店を手伝った。レオと顔を突き合わせても、養父はなんとも口にしない。
(これだけ店が繁盛すれば、盗まれた分を取り返せるのかも知れない)
レオはため息を取り落とす。
「うちは、料理も酒も上級なんだ。一度飲み食いしてもらいさえすりゃあ、何度も来てくれるようになるだろう」
鼻歌交じりの養父は、大皿に料理を盛り付けた。その様子を見つめつつ、レオは木枠の長机に陣取って座った。
「レオ、果実酒はおまえにはまだ早い」
飲もうとした寸前で養父に瓶を奪われる。
「どうして? マリョーシュカはいつも飲んでるのに」