26盗賊の心。
彼の姿を見た。
屋根から屋根を跳び歩き、夜風に銀の髪をなびかせて。赤いまなざしは強く、しっかとかなたをにらみ据える。
「赤目! おれを連れて行って!」
伸ばした指先が、むなしく空をかいた。
「待って、待って……待ってよ!」
優美なしぐさで空を仰いだ赤目は、ゆるりとレオのほうに体を向ける。どくり、と心臓が脈打った。重力を感じさせない軽やかな足取りで地上に降り立ち、ぬらりと長剣を引き抜いていく。
「……あぁ」
レオは腰が抜けたようにして石畳にへたり込み、息を吐き出した。
――隻眼。
やはりあの夜のできごとは、夢ではなかったのだ。ぽかりと穴の開いたむき出しの眼窩を隠そうともせず、赤目の口元にはわずかな微笑がたたえられている。
「おまえらか」
風のささやきのような赤目の声音は、レオの耳にくっきりと残った。
(オマエラ?)
レオは弾かれたように振り仰ぐ。
「待ちかねた」
隆々とした体躯の男らが、不敵な笑みを浮かべてレオの背後に居並んでいた。皆、赤目と同じ長剣を腰に差している。
「行くぞ」
「あっ、待って! 待ってください! おれも、おれもいっしょに連れて……いって……」
レオは駆け出し、赤目の着込んだ外套に手を伸ばした。
「……あれ?」
いくら握り締めようともレオの指は宙をかき、何もつかめない。ばたばた指を動かすレオを取り残し、赤目はきびすを返した。
「赤目! ねえ、赤目!」
仲間と共に、再び宙に踊り上がっていく。
「……ああ」
――レオの声は赤目に届かない。
レオは鋭い視線を感じて、身を震わせる。
「まさか、赤目が戻って?」
慌てて首をめぐらせたレオは、外出用の外套を羽織ったままの養父と目が合った。なぜか外套はびしょぬれで、まるで深い海の中から這い出てきたかのようにも思える。
レオが見ていることに気づくと、養父は一歩前に進み出た。
「帰ろう、レオ」
養父は笑う。にこりと、似合わぬ笑顔で。
――雨が降り始めていた。