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マイ★スター  作者: みっち~6画
第1章 レオ・パーク
25/56

25始まりの音。

 黒服の男は腕をまくり、まるで荷物のようにレオの体を引きずった。

「ちょ……いや、待って! まだ話は終わっていないだろっ! おい、リヒャルト!」

 名前を呼ばれた少年が小さく片まゆを動かしたのを、レオは見逃さなかった。

「大袋を盗ったのがあの人だとして……どうして、どうして教えてくれなかったんだよ。なぁ、答えろ。リヒャルト!」

 騒ぎを聞きつけたガジル医師が、庭の向こうから姿をのぞかせた。いかめしい顔つきの父親もいっしょだ。黒服の男の歩みが、いっそう速まっていく。

ぐるり空を仰ぐ形で、レオは馬車のほうを見やる。

「……あの大袋。あれがないと、おれたち一家は冬を越せないんだよぉ」

 ガジル医師の背中に隠れ、少年の表情はレオからは見えなかった。


   ●   ●   ●   


 すっかり暮れてしまった街並みを、レオはかかとを引きずってずりずり進む。黒服の男に握られた腕が、じわりと痛んだ。

 ――もう一度、朝からやり直せるとしたら、絶対に大袋から目を離さないのに。

 丘をめぐって街道に戻ると、市場の石畳の上をあてもなく歩いた。すでに店先には人影もなく、どこかの野良猫が不審げにレオの顔をのぞきこんでいる。

 レオにだって、分かっていたのだ。手ぶらで店を出たリヒャルトが、あんなにも大きな袋を持っていけるはずもないことを。

 今朝方、養父はなんといって出かけたのだったろう。名のることさえしなかった旅人は、もう二度とレオの前に姿を現すまねはしないと思われた。鉄さびの味が、じわりと口の中で広がっていく。

「お義父さんはきっと……おれを許さない。こんな大きなヘマをやらかしたおれを、今度こそ……見放すだろう」

 市場の隅にある古井戸に背をもたせて寄りかかり、レオは月の光を受けた街並みに目を向けた。市場の天蓋が闇色に沈み、見わたす限り遠くまで続いている。

 ――初めに、あの音がした。

 金貨をひしゃりとやったかのような、不快でたまらない音だ。レオは目を凝らして、周囲を見やる。

「……いる。絶対にいる。赤目。赤目だ!」

 確信めいた想いが、レオの胸を駆けめぐる。

「赤目! おれはここにいる!」

 あらん限りの声を張り上げて、レオは赤目の姿を探した。

 本当に彼が首都の子供らに施しを与えているのなら、レオにだって手を差し伸べてくれてもいいはずだ。

「助けてほしいんだ! おれはもう、家には帰れない……」

 レオの後ろ側でまばゆい光が現れて、消えた。



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