24常識。
「いいから、その話はあとにしろよ」
挑発には乗るまいと、レオは医師の姿を探して首を伸ばす。レオの善意などお構いなしに、少年はせせら笑いを浮かべた。
「すきだらけなんだ、おまえは。典型的なお人よしそのものだな。田舎の」
足を止める。
「……何を、他人事みたいに」
「愚かだな」
あのとき忠告しただろうに、と少年は目を細めた。
きゃしゃな少年の肩先が、わずかに震えている。そうやって発作を抑えているのだということは百も承知で、レオは精いっぱいの侮蔑を込めて少年を見やった。
限界だった。
「おまえが盗ったくせに」
少年は答えない。またたきを忘れた魚のように、レオは少年を凝視していた。
「泥棒。盗人。人でなし」
最初に動いたのは、少年のほうだった。上体を起こし、「もういい」とつぶやくと、小さな銀の鈴を取り出す。
おそらく、レオの一家が総出で働いたとしても、手に入れることは難しいであろう高価な品だ。うっとりするような光沢の表面に、さらに窓に掛けられた覆いの銀が映り込んでいる。
「見ず知らずの旅人なんか、信用するものじゃない。常識だろ」
少年は手のひらで鈴をもてあそびながら、言い放つ。
「おまえのことか」
「……何を言っている」
少年は、乾いた笑みを口元に浮かべた。
「やつらの狙いは、初めからあの大袋だった。中身は金なのだろう。君が階段を上がったとたん、やつが何をしたのか知りたいか?」
――やめろ。
レオは、すぐに声を上げようとした。それでもなんと反論したらいいのか分からず、口をわななかせて少年をにらみ据える。
「ここにいても、問題は解決しない」
レオの脳裏には、去り際にほほ笑んだ旅人の顔が焼きついていた。
息苦しい。
「違う、おまえだ」
獅子のたてがみのような金色の髪を、レオはぶるんと振った。
少年はレオの視線にひるまない。まるで、レオを挑発することで発作を忘れようとしているようにも思える。冷ややかな青いひとみは、ないだ海のように静かだ。
鈴がしゃらりと鳴る。すぐに乾いた足跡が近づいてきた。
「お呼びでしょうか、リヒャルト様」
黒い服を着た男が無表情のまま、レオの傍らに立った。