23強欲な顔。
手を伸ばすと、銀の覆いは、しゃらりと音を立てる。必要以上に飛び上がったレオは、なんの素材だろうかともう一度手を伸ばした。
「……用があるのなら、早くしたほうが賢明じゃないのか」
冷たい声が頭上に降って、銀の布に夢中になっていたレオはまたも飛び上る。
「えっ、あ、ああ……おまえ!」
馬車の小窓から視線を落としていた少年と、レオはまともに目が合った。
「意外だったか?」
きつい物言いも、先ほどと変わらない。
「……おまえ。その顔。あの、機嫌の悪そうな父親とそっくりだな」
かしこまって小さくなっていた医師の姿を思い返し、レオはぽつりとつぶやく。
「似てる? ぼくが?」
意外にも衝撃を受けているらしい少年の姿に気をよくしたレオは、なおも続けた。
「ああ、似てる。まゆ根を寄せた顔なんて、びっくりするほどそっくりだ」
少年の顔が馬車の小窓に一層、近づいてくる。
「見たところ、金持ちみたいだけど。あの鼻につく強欲そうな顔を見る限り、何をして富を得たんだか分からないな」
返事はなかった。
「ああ、そうだ。きっと義賊の赤目は、おまえの父さんを見て舌なめずりするだろうよ」
やはり反撃してこない。レオは、いぶかしげに顔を上げる。
小窓から、少年の姿は消えていた。
「なんだ?」
ひゅう、ひゅう、とすきま風のもれるような音が聞こえた。突風でも襲いかかってくるのかとアゴを上げて視線をめぐらせるものの、その気配もない。
(また聞こえた)銀の覆いの中、だ。
「大丈夫かよ、おまえ」
伸び上がった先で、少年は背を丸めてうずくまっていた。ひゅう、ひゅう、と音がするたび、細い背中が大きく上下している。
「ガジル先生を呼ぼうか」
先ほどまでの攻撃的な気分はどこかに吹き飛んでしまい、レオは小さくささいやいた。
「いいから話を続けたらどうだ」
レオの気遣いなど鼻先であしらって、少年は目をむいた。
「言ってみろよ? 何のためにおまえは、ここまで追いかけてきたのだ?」
「待てって。ちょっと、待て」
青白いのを通り越して、少年の顔色が真白に変わるのを見やり、レオは辺りに視線を滑らせた。
「今はそんな場合じゃないだろ。すぐに先生を呼んでくるから、そこで待ってろ」
レオは、反転して走り出そうとした。
「今ごろ気づいたのか。もう、遅いのに」唐突に少年は、口元をにやりとつり上げた。