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マイ★スター  作者: みっち~6画
第1章 レオ・パーク
21/56

21足りないもの。

「……そうか」

 レオは顔を上げる。

「どうしたんだい、レオ。具合でも悪いのかい?」

 黙ったままのレオを不審げに見やりながら、母親は四角い木机の中に入り込んできた。

「やっぱりどうも心配でねぇ」

 朝食の世話をしてすぐに戻ってきたの、と母は続ける。

「今まで、ふたりきりで店番をさせたことはないでしょう?」

 母はマリョーシュカのくるくるの巻き毛を探して、辺りをうかがった。

「あら、あの子はどこだい」

 この場に足りないものが妹だけでないと知ったら、母はどのような反応を示すのだろう。

(知りたくもない)

 レオは母親が食器をひとそろえ、かごから取り出すのを見つめ、かめから水をくむのを待った。

「お母さんも年を取ったわ。やっぱり近くに越してもらわないと、これからやっていけないかも知れない。どう思う、レオ」

「うぅん? うん、そうだね……」

 レオは、どぎまぎして目をそらす。母はふと動きを止め、レオをちろりと見やり、奥の間に入っていった。

(落ち着け。落ち着け。落ち着け。……大丈夫、もう一度、考えるんだ)

 胸に当てた手が震えている。止まらない。

(どこに置いた? 考えろ。考えろ。考えろ)

「ねぇ」母がのそりと顔を出す。

「大袋はどこだい? お義父さんから預かったんじゃないのかい」

 レオは、どぎまぎして目をそらした。母は静かに、すぅっと目を細めた。

「あれは店に出しちゃいけないと、言われなかったのかい。何かあったら、どうするの。お義父さんが帰ってくる前に、戻してしまいなさい。……レオ?」

 口元をゆがませる、母。

「まさか、おまえ……」

「違う、違う! ぼくは……そうだ! そうだよ。ちょっと上に行って、ここに戻ったら変なやつが店にいたんだ。街道から大通りへの近道に、店を突っ切っていったんだよ、そいつ。変だろ? おかしいよね? きっとそのときに……」

 すぐさま表に駆け出してみるが、当然ながらすでにその姿はない。幼子の手を引いた母親が、ゆったりと歩いているだけだった。

 レオの目が、広場の中央に吸い寄せられる。水盤を見つめた。

「みんな夢だったらいいのに……いや、違う」

 ――『あの夢』が、本当だったらいいのに。

 赤目を襲った波紋の「顔」が、レオに向かって飛び出てきてくれたら、養父も母も少しは同情してくれるかも知れない。



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