表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイ★スター  作者: みっち~6画
第1章 レオ・パーク
18/56

⑱非常識。

「この近くに、とてもいい温泉があるって聞いたんだけどな」

 旅人は、ぴこりと首をかしげる。レオは、ほおを上気させて立ち上がった。

「ええ、すごくいい温泉ですよ。おれのばあちゃんも、今そこで湯治をしていて……母さんも世話しに行ってるんです。ここから、すぐの所です。案内しましょうか」

「いや。それでは、君に迷惑をかけてしまう。店番を頼まれたのを聞いていたよ?」

 旅人は片手を上げて、レオを制する。

「女将さんもいないとなると、君ひとりきりじゃないか。……それに……そう、おれの仲間がもうすぐここに来ることになっているんだ。いっしょに行こうと計画していてね。よければ地図を……描いてもらえないかな。それをたどって行くから」

「はいっ! あ、ちょっと待っていてください」

 本を閉じ、勢い込んで階段を駆け上がった。部屋に飛び込むと、すぐにジャスパーから贈られた冊子を引っつかむ。これだけの一品。きっと首都に住む旅人でも、見たことがないに違いない。さんざん迷ったあげく、レオは空色の色鉛筆を選び階段を下りて行った。

「お待たせしました」

 レオの声に、旅人はわざわざいすから立ち上がる。満面の笑みを浮かべた横顔は、首都の博物館に収められている白磁の彫刻のように整って見えた。

 丁寧に地図を描きながら、レオは何度も旅人の顔を見上げてみる。分かりやすいよう、街道を中心に建物を描いていく。道を外れて広々とした森を進み、観光地としても名高い温泉の村を指し示す。

「そうか。ゆっくり歩いても、昼前にはたどり着けそうだね」

 感慨深げに、旅人は笑った。

「ところで、君にお客だよ?」

 旅人は街道に面した宿屋の入り口を指し示す。レオは飛び上がるようにして、扉を振り仰いだ。初めに目に入ったのは、彼が首に巻いている淡い色合いの布だった。レオとさほど変わらぬ年ごろのようだが、この街では見ない顔だ。

 厚手の上着に重ねて、さらに黒の外套を羽織っている。少年は寒そうに胸元を引き合わせると、きつい顔をレオに向けた。形の良い唇が、ゆっくりと動く。

「君は店番なのだろう。だとしたら、見ず知らずの人間を置いて奥に戻るなんて、非常識じゃないのか」

 一方的にののしられたレオは、ぶつけられたことばの数々を頭の中で何度も反すうした。今夜の宿が入用なのだろうか、とまぶたをしばたたせる。

「無用心だ、と言っている」

 少年はあごをしゃくって旅人を見やった。つられたレオもまた、旅人のほうに向き直る。傍らにたたずんでいた旅人が、見る見る顔を曇らせていった。

 なんてことを言うんだ、とレオは小さく舌打ちする。

「見ず知らずなのは、おまえのほうじゃないか。何の用だよ」

 どんな客だろうが頭を下げろ。養父のことばは頭の隅に押しやって、レオは真っ正面から少年を見返した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ