⑯寝坊の朝。
――もし、自分が赤目の立場だったら? やはり、同じようするのだろうか。目の前の、見捨てられない子供らのために。……盗みを?
飲んだくれのガス・ダイ・レンジに擁護される、義賊の赤目。
灰色のひとみの少年たちに銅貨を投げつけた、首都の香り漂う旅人。
働き者のいかつい養父と、ぐずぐずして気弱なレオ。
(分からない)
思い描いた首都の住人と、あまりにかけ離れた少年たちの姿を知り、レオは惑っていた。
窓辺からのぞく広場の景色を、レオは遠くから見やる。月の明かりが、ちろちろと頼りなく照らす路地。石畳の広場。静まり返った、水盤。
● ● ●
赤目の話で眠れなくなったレオは、明くる日もまた寝坊した。怒鳴るだけでは飽き足らず、部屋まで乗り込んできた養父に毛布を引きはがされ、飛び起きる。
「レオ。休みが始まる前におまえに与えた仕事は、なんだったかな」
冷たい冷たい水汲みと、果てしなく終わらない掃除です、レオは心の中でつぶやいてから、もそもそと毛布を腹の辺りに引き込んだ。
「聞こえないぞ」
養父のほうは容赦ない。
「……水汲みと、掃除」
「分かったのなら早くしろ」
合図のようにため息を吹きかけて、養父は部屋を出て行った。
がつがつ階段を下りていく音が荒々しく遠ざかっていくのを聞きながら、今朝は母が留守にすることになっていたのを思い返した。祖母の世話のために、湯治を村まで出向いているのだ。
階段を下りていくと、養父ディゴロもまた、旅仕度を整えて待っていた。
「いいかレオ。掃除が終わったら、次は居酒屋の店番だ。マリョーシュカが宿屋のほうを見るが、もちろんおまえも助けるんだ。これを見ろ」
養父の手には、昨日見せられた針糸の書物があった。おもむろにその頁を破り取ると、外套の懐にねじ込み、むせ返りそうなほどの勢いでがんがんと上からたたいた。
「商売繁盛。幸運の宝! いいか、忘れるな」
どうせなら買い付けの手伝いがしたい。レオがそう口にしたら、きっと何倍もの罵声が返ってくることだろう。レオは押し黙り、養父は満足そうにほほ笑んだ。
「手を出すんだ、レオ」
レオの細い手のひらに、養父は重たい大袋を乗せた。
「いいか。絶対にこれから目を離すんじゃないぞ」
「これが、うちの全財産ってことだね」
たくさんの銅貨や銀貨の中に、金貨と紙幣が少しだけ入り混じって納まっている。