⑮首都の香り。
旅人は構わず、レオを真正面から見据えてくる。
「子供たちの英雄か。すると、君もそうなのかい? 君も、赤目にあこがれているの」
「いえ、おれはそんな子供じゃ……いや、でも……」
どっちなんだ、と養父の檄が飛ぶ。レオは旅人の横に置かれた外套に視線を移し、「そうでもないです」と、か細い声で答えた。
「なんだ、そりゃ」しゃがんで釜の様子を見ていた養父が、すっくと立ち上がった。片まゆを器用に持ち上げ、レオを射すくめる。
「男ならもっとでかい声を出さないか、レオ」
養父が仁王立ちになると、急に店の中がせまくなったように錯覚する。レオが養父をなんとなく苦手に思うのは、この体躯のせいもあるのかも知れない。
対して旅人は痩身の若者で、養父とはまったく違った性質だ。にもかかわらずレオの注意をそらさせないのは、きっと彼から漂う首都の香りのせいなのだろう。
ひげ面の客が、さらに話に割り込んだ。
「旅人さん。赤目に出会わなかったのなら、幸運なことだ」
「なんだって? 待て待て。赤目は義賊だぞ。何にも知らねえ旅人を襲うかよ」
応戦したのはガス・ダイ・レンジだった。大げさに肩を震わせ、周囲を見渡す。ガスはレオを見つけると、うれしそうに「なぁ」と同意を求めてきた。
「赤目は、悪事を働いた者の所に盗みに入る。つまりやつらに目を付けられた者は、悪人だと相場が決まってんだ。金持ち連中から盗んだ品物を、貧しい子供らに施してるってウワサも聞いたこともあるしなぁ。だれにも頼る者のない子供らの面倒を見るなんて、なかなかできることじゃねぇだろう」
「そうかい」ひげ面の男は、立ち上がると銅貨をちゃりり、と木机に載せた。
「ありがとよ」
養父が、いかつい声で答える。
「義賊だろうとなんだろうと、盗人は盗人さ」
ひげ面の男が立ち去り際につぶやいたことばが、レオの耳に残った。
「どちらにしろ物騒なことだ」
養父が、いまいましげに吐き捨てる。
「子供らの面倒なら、ちゃんとお役人が見てくれる。施設に集めるとか、養子に出すとかな。やつらのやっていることは、つまりは、なんにもなりゃしないことなのさ。いくら施しを与えようと、やつらが盗人であることに変わりはない。まじめに働いているこっちとしては、あんまり気分のいいものじゃないな」
養父の言うことは正しいのだろう。だが、義賊をたたえるガスの気持ちも理解できる気もしていた。灰色の少年の姿が、レオの脳裏から離れない。銅貨を一枚。彼らはそれを握り締め、再び首都への帰路についたのだ。もう帰り着いたのだろうか。腹は減っていないだろうか。
分厚い雲から、激しい雨が落ちてきた。
――はだしで踏みしめる石畳は、どれだけ冷たいのだろうか。