⑫灰色の少年。
「なんだい、けちだな!」
男は、彼を取り巻く四、五人の子供らにののしられ、途方にくれた顔を作っている。旅人が好んで着る、長い外套を羽織っていた。
「それじゃあ、まるで約束が違うじゃないか。なぁ?」
子供のひとりが、声を張る。灰色の目をした少年だった。
旅人が煩わしそうにまゆをひそめると、灰色の少年はさらにいきり立った。彼は他の者よりもひと回りほど小柄だが、その達者な口ぶりから察するとレオとはさほど変わらない年ごろなのかも知れない。
「おい、なんとか答えろよ!」
周囲の厳しい視線にひるむ様子も見せず、少年は、目深にかぶったぼろぼろの帽子を脱ぎ捨てた。ひとみと同じ灰色の髪が現れる。不ぞろい前髪は、鏡も持たずに自分で切りそろえたのかも知れない。
「アンタ、言ったじゃないか! これがいっぱいになるぐらいの金貨をくれるって。だからオレたち半日もかけて、首都からアンタの重たい荷物を運んできたんだぜ? 大人なんだろ、約束は守れよ!」
――首都だって?
レオは改めて、少年らを一瞥した。
シャツやズボンは体よりもずいぶん大きくぶかぶかで、まちがって兄弟のものを着てしまったとしか思えない。驚くことに、ずいぶんな寒さというのに靴を履いている者はだれもなかった。赤くささくれ立った細い足が、石畳の上に伸びている。
レオは目をそらした。
憧れの首都の住人というのに、彼らはレオの想像とはかけ離れた暮らしをしているに違いない。おそらく、街角をねぐらとしている連中だろう。そこまで考えて、最近の不景気でその数も増えてきているらしい、と客らが話していたのを思い返した。
レオは、自身の足元に目を落とす。レオの家は決して裕福ではなかったが、養父が昔、靴職人であったことから、家族の靴はいつも新しいものがそろえられていた。
その靴先に、砂ぼこりが付いている。ほこりっぽい西路地に行くと、すぐにこうなってしまうのだ。このまま帰ったら、また養父にとがめられる。しゃがみ込んで丁寧に靴をぬぐうと、満足げに顔を上げた。
はたと動きを止める。
少年の灰色のひとみが、レオをにらみ据えていた。思わず身を引いたレオを見て、彼は鼻先でせせら笑った。投げ捨てた帽子を拾い上げ、やけに緩慢に頭にのせる。
靴をぬぐったのは、優越感に浸るための行為ではなかった。ほこりを見つけて、払っただけだ。だが、なんとも要領の悪いレオはいつもこうして誤解を招く。鏡を見るまでもなく、顔が赤らんでほてっているのが分かった。
誤解されたままでいるのは、レオの本意ではない。すぐさま反論せねばと口を開いたが、どうことばにすれば伝わるのか分からなかった。そうする間にも、灰色の少年はどんどんレオから遠ざかり、長身の男へと向き直ってしまった。