表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

怪奇事変

怪奇事変 河童憑き

掲載日:2026/04/06

1万字を考えるのって結構大変ですよね、なんか頭がぼーっとしてくる

 九州――ある地域にて。


 「オラと相撲をとれ!!」


 「はぁ?なに言ってんだオッサン」


 「おい、そこで何をしてる!!」


 チンピラとサラリーマンの合間を取る様に警察が来るも、サラリーマンは気にせず、身に着けている衣服を脱ぎ、トランクスの姿で四股(しこ)をしだす。

 だが、片足が地面に着くとまるでその地帯が地鳴りの様に揺れる。


 「さぁおいでなすって!!」




 第二十四怪 河童憑き

 

 幸いにも負傷者は出なかった…とは言い難い。

 通行人であるサラリーマンがチンピラにちょっかいをかけて、喧嘩になった…その報告書通りなのだ。

 ただし、不可解な内容を証言されて、実際に証明もされている。

 サラリーマンが下着1枚でほぼ全裸になり「相撲をとれ!」っとチンピラに放った言葉だ。

 立ち会った警官も何が何だかさっぱりだが、間に入った警官が勢いを付けたサラリーマンの突っ張りで顔面を強打し、その後全身を激しくぶつけられ、吹っ飛んでいる。

 その結果、警官は重症の怪我を負って、サラリーマンは現行犯逮捕、だが――


 「……すみません、なんの事だが、さっぱり……」


 あらゆる手段を用いて尋問をしても、主犯となったサラリーマンはその行為に対して一切の行動を記憶していないと言う。

 逆にチンピラ達の意見はこうだ。


 「知らねーよ、いきなり「相撲しろ!」とかふざけたこと抜かしはじめたんだよ、あのオッサン」


 「いきなりだったよな」


 「つうか公共の場で社会人が普通脱ぐか?マジ引いたんだけど…」


 散々な言い分だったが彼らの言う通りではあった。


 そして、大分県では――


 「ウチの子が帰ってこないんです!」


 「お、落ち着いて下さい!まず何時で特徴などは?」


 大分では少女の謎の行動からの失踪、傍や体調不調、更には記憶喪失などを引き起こし大変な騒ぎとなっていた。

 

 「わかりました、すぐ捜索隊を組むのでまずは落ち着いて――」


 大分では最近の少女にまつわる事件はこんな事ばかりだった。

 いきなりふらふらと千鳥足で何処かへ行こうとする娘、休みの日で起きたばかりだと言うのに酷く消耗し疲れてしまった子、更には先ほど言った記憶喪失の子まで。


 「一体どうなっているんだ!!」


 「警部補!またA町にいる少女が――」


 「ええい!一体何がどうなっているんだ!!」


 ――長崎県――


 「あの子が言ったの、あっちに美味しい胡瓜があるって、川辺の方に綺麗な水と魚も沢山いて、たまに珍しい鳥たちが――」


 「昨日からずっと食事も摂らずにこうつぶやいているんです…」


 「……失礼ですが、病気を持っていたりとかは?」


 「ありえません!なんなら、この間病院に行って診てもらいましたが、全く異常がないとの事でした!」


 「そ、そうですか…普段は物静かな方…なんですか?」


 「喋りますけど、此処までぶつぶつなにか言ったり、食事を抜きにするなんて事、ありえませんでした!」


 「そうですか、では――」


 

 ――東京都警察本部――


 「以上の事が各県から取り寄せられており、至急“特例課”に応援要求が殺到しております」


 「……ならば“特例課”にこう伝達しろ」


 「……はい?」


 「以上が警察庁長官から下った命であります」


 「……それが“霊術院”の応援要請?」


 「はい!」


 「返事いいな、お前」

 

 草薙は悪態を付きながらソファーにくつろぎ、送られてきた書類に目を通す。

 各県で発生している異常事態は人為的なものではなく“怪異的なモノ”として判断して処すべき、これを“特例課”に一任すると同時に応援要求として以下の内容も付け加える。


 1.特例課の出撃

 2.人員補給として“霊術院”側に応援要求

 3.要求をのみ次第、臨時とし“特例課”として動き自体の収集に当たるべし


 「……警察庁長官も参ってる様子で、何か困ったら本部頼りだもんな~」


 「草薙さん、そんな事言わずに応援要求しましょうよ」


 南が手渡す茶を飲みながら渋々携帯を取り出して連絡を掛ける。

 まずはジェイソン事件を片づけた功労者であるミカエル・シュテリンダーを呼びつつ、後輩である山神龍之介にも応援要請を送っておく。

 立場上、龍之介は特級霊媒師となったばかりで彼を独断で動かす事はできず“霊術院”側に申請が必要だが、後で申請するだけだから先に送ろうが後で送ろうが構わないと送信する。

 そして――“霊術院”側にことの内容を伝達し、連絡を計る中で“ある人物”を思い出す。


 「そう言えば……アイツが居たな」


 「アイツ?誰ですか??」


 「”霊術院”に入って僅か数か月で特級霊媒師まで上り詰めた新星と呼ばれた少女、年齢は龍之介と同年代ぐらいの」


 「誰なんです?その人って」


 「――”花岸佳織”、特級霊媒師で京極、シャーロット、神木、その次に任命された特級霊媒師が彼女だ」


 「へぇ~凄い人なんですね!」


 「ちなみに龍之介は佳織の次で5番目だ」


 「……なんか凄くいやらしい言い方ですね、恨みでも持ってるんですか?」


 「ぜ~んぜん」


 持ってるな、っと南は心の中にそっと言っていた。

 

 「今は諜報の方に転属したって話だが、腕は鈍ってないだろーーアイツ程うってつけの人物もいねー」


 「会った事あるんですか?」


 「一度だけな、剣の手合わせもしたことある」


 誇らしげに語っている草薙に怒声が襲う。


 「草薙!」


 「立花…と村上さんじゃん、お久しぶりだな」


 「だな――じゃね!また可笑しなことに…」


 「ああ、大丈夫。それに関してはこの通りだ」


 紙を叩きそれを立花に渡すと、先ほどまで激昂していた立花も冷静差を取り戻していた。


 「警視庁長官の直々の執筆と依頼とはな、また俺達はなにもできないのか」


 「かもな、でもそれが一番良いかもしれない」


 その言葉に普段であれば噛みついていた立花も今回ばかりは噛みつかなかった。

 何故なら彼は一度、廃校舎の一件で幽霊の存在を認めてしまったからである。


 「解決できる見込みはあるのか?」


 「それはまー…霊術院に居る老人共を説得できりゃ何とか?」


 「なんとかって…正直、どこの県でもめちゃくちゃだぞ!」


 「……まぁ、大丈夫だろ、今回ばかりはアイツも動かざるおえないし」


 ――霊術院――


 「って事で、事態の収束に警察から協力要請が届いてるんで、何人か引っ張ってきますよ~」


 「ならん!」


 断固として青年の言葉を否定で返す。

 部屋は一点の光しか刺しておらず、そこにはまるで罪人がこれから裁判にかけられるような造りになっており、周囲には数席と顔を見えないように板で固定されている。

 そんな板の向こう側からは声からして老齢の声などが聞こえてくる。


 「京極、お前の勝手で霊術院の輪をかき乱すな」

 

 「ぶをわきまえろ!よりによって特級相当の霊媒師にも関わらず、1級も何人か招集するだと!?」


 「いい加減にせい!霊術院をなんだと――」


 「あ~…皆さんお静かに――悪霊は当然“物の怪”の類による事件性も一般社会に大きな影響が及ぼす事は俺が説明しなくともお分かりで?」


 京極の言葉にそれまでざわついていた声が静まり返る。

 それを確認して京極は続ける。


 「此度の件は複数の県絡みの事件性から詛呪師が行った活動…と誤報も流れてましたが、乗っ取られた一般人を霊視した結果、河童憑きだったそうです」


 「……河童か」


 再びざわつく。

 それだけ今回の件は重い内容なのだろう。


 「確かに、近年悪霊は勿論、詛呪師との抗争、今回のような物の怪の暴走などで霊媒師は完全に身動きが取れなくとも、自由が利かなくなっているのは理解しております」


 「そこまで分かっているならばなぜ?」


 「なぜ?ならばこちらからも質問させて下さい――何故、犠牲ありきで物事を考えておられるのですか?」


 「……」


 「確かに一般人からしてみれば勝手に狂乱して死亡した…って記事にでっちあげる事も可能です、何より彼らに証拠となるものを提示できないから」


 「そうだ」


 「ですが、霊媒師が一般人を助ける理由は存在する、我々は独自の国家を持った独自のルールを強いてこの日本に滞在している訳ではありませんよね?」

 

 「……」


 「天皇陛下、総理大臣、このお二方との話し合いでも霊術院は()()()()()()()()()()()()っとあります、まさか…今更考えが変わったからと言って見捨てられるのですか?」


 「そのような事はない、だが物の怪の仕業ならここまで大々的に兵を動かす必要はないっと言っているだけだ」

 

 つまり、救いはするが、その救う人選の人数があまりにも多すぎる――或いは、それ以上に今回の事件性を考慮して、霊術院の中でも一位二位を争う役割を全うする人選を動かす事が気に入らないのだ。

 そこまで河童憑きに対して重要か?っとの疑問。


 「今回の河童憑きを例えるなら…蛙の繁殖みたいなもんです、駆除しておかないと後々面倒事になります」


 「しかし…1級や特級にはそれぞれの役割が……」


 「全て…を救い上げる事は叶わないのは俺も承知の上です」


 「そこまで分かっているならなぜそこまで固執する?」


 「……可能性の話なのであまり自体を大きくしたくはありませんが、詛呪師の暗躍…誤報としましたが、可能性としてありえます」


 「……それはつまり――」


 「()()()()()()()()()()それぐらいの戦力は必要不可欠でしょ?」


 その一言で更に場が騒めく。

 そして最終決断として下された任命は、警察側の要求を呑むと言う事で一致した。

 だが…当然条件はある。


 1.この事件騒動に対し既に憑りつかれた河童憑きの除霊は1級霊媒師である草薙健吾を筆頭とし、複数人で取り掛かる事。

 2.特級霊媒師の京極戎史郎は河童憑きとは別にこの事件の裏に居る人物の特定を済ませる事。

 3.京極戎史郎、及び、草薙健吾の要望で特級霊媒師及び諜報部の“花岸佳織”を加え、速やかに事態の収束を行う事。


 以上が下された任命だった。

 正直、京極の中では佳織は無理な可能性があったが、彼女の霊術が此度の事件を速やかに解決できると踏んで草薙と口裏を合わせて説得したと言った形だ。


 「それじゃ一日で片づけますか~」


 長い階段を降りながら伸び伸びと自分のペースで任務に付く京極に電話が掛かってくる。

 相手は「草薙健吾」からだった。


 「も~しも~し」


 『上手く言ったか?』


 「バッチグ~。つうか頭のパーツ石で作られてるんじゃねーのか、あの年寄り共」


 悪態を付きながら階段を降りきり、近くにあった自販機で適当な飲み物を購入し、それを口の中に含みながら話す。


 『いつもの事だろ、だが佳織を動かせたのは良かったな』


 「良いのかね~、本人が居ない場所で「アイツ貸して?」とか言われたら普通にウザくね?」


 『……今回ばかりは仕方ないだろ、佳織の霊術は使える』


 「まぁ~…つうか、アイツ。いつの間にあんな霊術使えるようになったん?」


 『知らねーよ、お前の方が詳しいだろ、役職的にほぼ同じ管轄みたいなもんだろう』


 「聞いてなーシング!まぁ怒られた怒られたでまた考えるか」


 『おう、助かった。念のため佳織の携帯番号教えて――』


 「ああそれね、ダメ」


 『はぁ!?』


 「アイツは携帯での連絡手段は使わない代わりに――」




 京極と会話をしていると、何がか窓ガラスに当たった音が聞こえた。

 携帯を手放さず霊視しながら恐る恐るカーテンを開けると、一羽のカラスが止まっていた。


 『佳織は動物を使ってコンタクトを取るから、連絡手段はソイツになる』


 「……マジか」


 窓を開けて招き入れると、足に何か巻かれているのを確認する。

 伝書筒と呼ばれる紙を包んで居れてある筒の事だ。

 その紙を広げると内容分はこう書かれていた。


 『初めまして、草薙1級師、そして特例科の班長。お世話になります、霊術院、諜報部所属の花岸佳織です。

 早速ですが、このカラスが河童憑きを探すレーダーの役割を担っています、カラスの向こう方角に河童憑きが居るので、対処をお願いします』


 簡素な文を読みため息を吐く。


 「もしかして、コミュ障か?」


 『ないない、絶対ない!ただ人より少し――()()()なだけ』


 念のため、霊視で確認するとカラスは確かに生きている。

 式神とかの類ではないが、微弱だが霊力が込められている事を見ると、動物に使役できる能力と言った所かと納得する。

 

 「(そりゃ諜報向けだわ)」


 「とりあえず分かった、こっちでも何人か選抜してる人選で対処するから、お前もしっかり頼んだぞ」


 『あいよー』


 気の抜けた返事を最後に聞くと同時に扉が開く。

 すると数名の霊媒師…つまり同僚にあたる者達が立っていた。


 「ヒーローと言えば、この私!私の名は――」


 「とりあえず、やってきては見たものの、東京では特級霊媒師を含めて6名か…少ないな」


 「大丈夫ヨ。どうせこれ以上の無理難題言われること、ないネ」


 3名の霊媒師が特例科を訪れていた。

 長髪の金髪をサイドポニーテールで結んでおり、染めた訳ではなく彼女は日本人と外国人の間に生まれたハーフである。

 特徴的なのは――改良した独特のチェンソーを持っていること。

 隣に居る和服を着こなした人物は静かな佇まいで、腰には木刀を携えているが、あれ自体がそもそも“鞘”の役割を担っている。

 そして前回同様、坊さんの恰好で来たのは以前、廃校舎で助けてくれたミカエルである。


 「よく来てくれたな、エリー、嵩本(たかもと)


 「私はエリーではなく、正義の鉄槌…ではなく、チェンソーを振るう悪魔!名を――」


 「久方ぶりだな、草薙。どうやらこれで全員か?」


 「オイ、俺には挨拶無しカ?」


 「おうミカエル、元気してたか?ああ、全員だ。特級霊媒師は既に俺がアレコレ言う前に行動している」


 「それで、現場での活動はどうする?」


 「幸いにも奴さんも夜に動いてくれてるから、ある程度は一般市民の視線を掻い潜ることができそうだが、コイツを使う」


 そう言って、窓際に止っているカラスを指して説明を続ける。


 「なるほど、佳織の式神か?」

 

 「原理は不明、霊術の類なのは間違いねーが、コイツが通信手段となって河童憑きの位置情報なんかを探ってくれる」


 説明をしている最中、悲鳴が聞こえた。

 それは南だったが、偶然窓にいるカラスに餌を与えようとしたとろこ、カラスが増えたらしい。

 なんとも迷惑なと最初は思ったが、霊視してみると微かな霊力を持っていたところから、このカラスも佳織の霊術と関係があるカラスだろう。


 「どうやら全員に連絡係を付けるらしい、まぁ今夜片づけるが異論はないな?」


 「ない!」

 

 「自体は一刻を争うのだろ?問題ない」


 「シカトされてる以外は何の問題もないヨ」


 「そんじゃ河童狩りと行きますか」




 そして――夜



 東京の方では草薙、エリー、嵩本、ミカエルの4名と裏方に京極と花岸が居る合計6名の人員で事を対処することになった。

 23区を中心に郊外から東京エリアを離れない様にするのも役目の1つだ。

 ちなみに待機時間の合間に佳織からカラスの特殊な力を聞いた。

 なんでもこのカラスは探知から結界術まで展開できることから、一般人の目に触れることなく対処可能と言うことだ。

 かなり便利な能力に関心をしているものの、当の本人はこの場にはいない。


 「(遠隔操作でこの技術レベル、流石は特級ってところだな、俺なら穴と言う穴から流血してそのまま死んでるっつーの)」


 草薙が居る場所はお台場付近、海岸沿い。

 昼間は海水浴を楽しんでいる場所だがかなり静けさが増している。

 資格のショッピングモールからもこの場を確認できることから、比較的に“やりづらい”場所ではあるが、佳織の言うカラスの特性を信じる他あるまい。

 そんなことを考え込んでいると、1人のスーツの男がこちらに向かって歩いて来る。

 

 「(どう見ても普通じゃないな…)」


 スーツ姿で海辺の近く、酔っ払いか…それとも――


 「さぁ~!おいでなすって!!」


 その言葉よりも早く場の空気が変化したことに気づく。

 どうやらカラスが先に結界術を仕込んでくれたお陰でこちらが出遅れる心配はなさそうだ。

 既に草薙も木刀――基、“霊刀”を構え、相手の出方を見れている。


 「俺と相撲!とろうぜ――」


 瞬間であった。

 衝撃がこちらに伝わるまで何も感じなかったが、相手が瞬間的に突進してきたのだ。

 河童は相撲を取りたがる者も中には居るらしく、コイツはどうやらその類らしい。

 その結果、草薙は後方まで吹っ飛ばされ危うく結界の外に出てしまうところであった。


 「おいおい、いきなりの挨拶じゃねーの」


 外相はほぼない、ただ突進されただけだが次の瞬間、背筋が凍り着いた。


 『霊域結界』


 「マジか!?」


 霊の力場、テリトリー、それを結界術で構築し、相手を閉じ込め様々な付与を施す霊術の最高到達点の技術。

 ただ憑かれたサラリーマンができる芸当じゃない。


 「おい!コイツ普通の河童じゃねーぞ!」


 声を高らかにカラスに伝え情報を開示し全体に伝える。


 一方、各地でも混迷とした展開を迎えていた。


 新宿ではミカエルが放浪している一般人に憑りついた河童の除霊を終えた瞬間に、結界術を使用され身動きが取れなくなっており。

 練馬では同様に嵩本も同じ術にはめられてしまっていた。


 「一般人が霊域を構築できるとは…考えが甘かった」


 そして元気で中二病チックな少女エリーの居る目黒では――


 「映画館では静かにするべきだ!」


 「相撲!とるぜ!とろうぜ!!」


 「見よ!この日本刀よりも太く、持ち運びしやすい私専用の戦士の証!聖剣・チェンソー!!」


 『霊域結界』


 「!?」


 周囲の空気が一瞬で凍り付く、やはりエリーの方でも霊域を構築できる河童憑きがいる様だ。


 「……不味いな」


 草薙は事態は見て最悪な方向に進んでいることを痛感する。

 そのための霊術院への協力要請だったが、1級でどこまで歯が立つか…そして今回の任務での京極の援護は見込めない。


 「今のところ死亡者は出てねーから、大丈夫なんだろうな、大丈夫だよな!」


 突進してくる相手にカウンターで霊刀を振るうが、上半身を大きく後ろに反らす行為はまるで弓の弦を引く所作をみているような感覚になる。

 だがその姿勢から上半身を元に戻し、強力な突撃をかましてくる相手の攻撃は器用を通り越して、最早凶器だ。

 あれを一般人が当たれば、最悪の場合当たり所が悪ければ死ぬ。


 「クソ!霊域になってから相手のステータスが遥かにパワーアップしてやがる!」


 このままではじりひん…何とか手を打たねば対処ができない。


 「(普通の結界より強固な結界を構築する霊域を破る為には同じ霊域を構築しなおしてフィールドを書き直すか、霊壁をひたすら固めるのがセオリーだが――)」


 今回の相手は自身に付与する型のタイプ。

 つまりこの場合前者で相手のフィールドを破壊することが相手を弱体化させるための必須条件となっている。


 「(だが、うちの面子で霊域を使えるのは居ない、手立てがあるとすれば――)」


 最初から結界術を構築しているカラスぐらいだった。

 だが、あの小さな動物を操作しつつ結界を張るだけで精一杯のはず、それに問題は東京だけじゃない。

 別の都道府県でも起きているならば尚の事だ。

 

 「やるしか…ないか」


 霊域など使ったことがない。

 だが霊壁の基礎を知り、霊撃の基礎をしり、霊術の基礎をしればおのずとこの三組が重なりあった最終奥義とも呼ばれる霊域に辿り着けることは、全ての霊媒師が知っていた。


 「行くぞ!」




 暗い部屋の中で点在する大きなモニターだけ、光が許されていた。

 その中で1人の少女はただ状況を見てあることを思いついていた。


 「どうする!?このままでは霊媒師達がやられ――」


 「狼狽えるな!霊域が使えようと使えまいとやることは1つだ」


 威厳のある男の声で、諜報班の若手が静かに黙り込む。

 

 「生身の人間を借りた物の怪の憑きもの、一般人が構築できた霊域を維持できる時間にも制限がある」


 「けれどもその制限を超えて死ぬ可能性もあります、相手はただ肉体の主導権を借りてるだけですから」


 静かに男に返したのは少女だった。

 

 「ならばどうする!?」


 「幸い、全ての件に放ったカラスには私の霊術を施して結界術を構築できるように、霊術を流し込みやすくしてあります。

 結界の中なら、その中から結界を構築して上書きしてしまえば、相手の霊域を破壊することは可能でしょう」


 「なっ!?」


 男は驚く、此処は東京…都内だけでも範囲を考えれば1人でどうこうできるレベルを超えているが、県外を超えてそれを行えば負担は大きいどころか、下手をすれば――


 「死ぬぞ!?」


 「それでもやるしかありません、集中させて下さい」


 そう言って手印を組み体内から体外へと霊力を放出させていく。


 「な、なんて言う霊力だ…」

 

 「伝令でカラスを通じ私が話します、そして後のことは――現場の人達たちに任せます」




 映画館内では熾烈な戦いが巻き起こっていた。

 カラスの結界術によって外からは見た目や騒音も何一つ聞こえず見えない光景になっているため、もしこの光景を誰かが目にしていたら一目散に係や警察の者を呼ぶだろう。

 鋸歯状(きょしじょう)の刃がついたチェンソー擬きで攻撃を繰り返すエリー。

 相手は一般人だが異様な筋肉の発達からコンクリートに攻撃をしいてるような感覚しか手元には残っておらず、逆に攻撃したこちらの手が痺れる感覚すらする。

 

 「どすこい!!」


 「おらぁぁぁぁ!!」

 

 武器と張り手が衝突すると、凄まじい霊力の霊気があたりに飛び散り、客席や壁などに傷をつける。


 「正義が…勝つのだ!!」


 その状態のまま、スイングするように相手を吹き飛ばすエリー。

 霊撃によって高められたのはエリーも同様。

 だが消耗が激しいのは…エリーの方だった。


 「ぜぇ、ぜぇ…せ、正義は勝つ…のだ!」


 霊力の消耗によって意識が朦朧としてき始めた頃、何処からともなく声が聞こえた。


 『河童との戦闘をしているみなさん、花岸佳織です』


 「だ、誰だ!?まだ悪党が近くに!!」


 ――練馬区――


 「特級霊媒師か、声を聞けるだけでも安堵できるとはな…流石に、2対1ではこちらも余裕がなくなりそうで助かる」


 ――新宿区――


 「佳織カ…助かるヨ」


 ミカエルは壁際を背にして血だらけになっていた。

 ミカエルの相手は本物の力士、つまり河童が力士に憑りついたことで基あるステータスから著しく上昇し、霊媒師とタメを張るほど強力になっていた。

 そのため、相手のただの貼り手や突っ張りの勢いが強く、霊壁が何度も壊され、大ダメージを負っていたのだ。


 『今から結界内で私が“簡易霊域”を一時的に作り出して相手の霊域を崩します、その隙に相手を戦闘不能に追い込んで下さい』


 「簡単ニ…言う…ネ。こっちは本物の相撲、来てるのニ」


 ――江東区――


 「穴をあけるってことか…そうすれば一時的にだが確かに、相手の底上げしたステータスはダウンするだろ」


 だが問題はその隙をついてどうやって処理するかだ。


 ――県外、長崎県――


 「……」


 『簡易霊域を作り込めば一瞬だけ、相手の死角を作ることができます。つまり相手が自身の結界術で高めた――』


――大分県――


 『霊域によるバフを解除した状態で相手と対峙することが可能です!その状態ならば相手を倒すことが――』



――東京都――


 『可能と言うことです、皆さん、宜しくお願いします』


 通信を終える頃には鼻血ど眼球から流血した少女が座り込んでいた。

 当然県外まで伝える伝令の役割を担った影響は大きい。

 貨物に乗った重さ何トンと言った荷物を1人で背負って行動しながら話しているようなものだ、普通なら圧死する。


 「…花岸、良くやった。医療班に早く治療を施し――」


 「任務が終えるまでは、此処を動きません」


 「……ならば、そこで治療させろ、良いな?」


 「…は、い」


 限界だったんだろう、それでも現場にいるカラスは特殊な霊術を込められており、モニターで現在地を映しだしてくれている。

 それがまだ花岸佳織と言う人物が意識を保っている証拠でもあり、本来ならあり得ない事だった。


 「か…ら、すを、解く訳には……」


 意識が朦朧とし、今にも手放してしまいそうになる中、意識を保ち状況を見守る。

 そして――


 『簡易霊域』


 そう唱えると、更に出血の量は増え、吐血まで起こした。

 だがそのおかげで現場の状況は一気に覆った。


 「どおおおりゃぁぁぁぁ!!」


 「グガァ!?」


 鋸歯状の刃は相手の肉体を傷つけると同時に憑りついている河童に深い傷を残し、肉体から離れていく。

 

 「正義は――勝つ!!」


 その浮遊して逃げる河童の頭上から刃を振り下ろし一刀両断にするエリー。

 嵩本も同様に後れをとっていなかった。

 花岸佳織が作り出した一瞬の隙を見逃さず、2対の河童憑きを除霊することに成功していた。


 「流石は特級、花岸佳織が踏ん張ってくれなかったら、どうなっていたことか……」

 

 それでも負傷した腕を抑え、壁にもたれ掛かる。

 

 「良い相撲…だったヨ、祖国の親友に自慢…できるネ」


 重い音を立てて倒れ込む力士。

 腹には拳の跡が残ってしまったが、強引な手段を取らざるおえなかったとは言え、4人の中で一番の負傷者はミカエルだった。


 「どう、して…いつも俺、ばか…リーー」


 意識が途絶えそのまま眠りにつく。

 力士に憑依していた河童の力は絶大で1級を遥かに凌ぐ力を有していたことから、あとに特級だったのでは?と噂されるのは、この後の話である。


 そして――


 「わるいな、剥き身のアンタに後れを取るほど、俺も腕は鈍っちゃいねぇー」


 着られたサラリーマンは出血し、使えないと判断した河童憑きはそのまま逃げようとするが――。

 

 「おい!」


 河童は振り向くと、既に眼前に刃の先が触れるか触れないかの距離まで近づいており、それは静かに河童の頭頂部を串刺しにした。


 「霊力を込めた霊刀だ、安心しろ、痛みはあるかもだがちゃーんとあの世にいけるぜ」


 ボロボロと崩れていく肉体を前に、ようやく地面に腰を付ける。


 「一件落着ってか?“霊域結界”なんてふざけた技使うとか…悪霊より物の怪の方が厄介だわ」


 愚痴を零しながら胸ポケットに入った煙草を取りだし、火を点けて一服する。

 

 「やべぇ、まだ特級霊媒師様が見ていらっしゃるんだった……」


 慌てて煙草の火を消して、現場を見る。

 負傷者一名、原因は草薙の刃物、幸いにも警察なので倒れていたと言えば良い。

 問題はこのあとの後処理だ、きっと立花に怒鳴られる未来しか見えない。




 「全員、河童憑きの除霊に成功!現場には霊媒師を含める負傷者多数!警察と連携して医療班も直ちに現場に赴き応急処置を施してください!」


 「よくやった、花岸、お前もな」


 「術…を解きます」


 霊術でなんらかの仕込みをしていた佳織。

 操られたカラスたちは全員我に返ったように羽ばたいていく。

 

 「現場監督の方が楽なんじゃないか?」


 「いいえ、諜報の方が、今は…向いています」


 「フン、早く休んで来い」


 「しつ、れい礼…します」


 医療班に抱えられる形でモニター室から出ていく佳織を見送る班長。

 ため息を付きながら煙草に火を点けて一服吸う。


 「たかだか河童で此処までの騒ぎになるとは、いつでも怪異は油断ならねーな」




 「で?誰の差し金?」


 「い、言えない…ッ!」


 「“霊域結界”を使える物の怪も悪霊も確かにいるけど、一目見てそれだけ力量があるとは思えなかった、なのに最悪のシナリオでテロまがいな行為を繰り返して裏でほくそ笑んている馬鹿が居るのは分かってる」


 「グッ!?」


 「神木仁だろ?この裏で糸を引いてるのは??」


 「そうだ、神木だ!だがどの神木だ?」


 「あ?」


 「フルネームは言わないない、お前がせいぜいできることは、苗字が神木の人間を全員みな殺――」


 鈍い音が聞こえた。

 男は頭から血を流血させて倒れている。


 「京さん」


 「龍介か」


 「……霊撃で圧迫したんスね、脳に影響出てないと良いッスけど」


 「しないようにかる~くやった、だから問題ない」


 「……はぁ。なんつーか、此処まで来ると――」


 「うぜぇーな、神木のやつ」


 「やっぱり今回の事件は神木さんが?」


 「の可能性、つうか可能性じゃなくて、霊域結界を見た瞬間に詛呪師の誰かが入れ知恵したのは分かってた」


 ため息を付きながらポケットに入っていたキャンディーの包みを捲り口に入れる。

 

 「つまり、神木は直接じゃなくて間接的に手を加えてる可能性があるってことだ、しかも切り離す尻尾もちゃ~んと厳選して選んでる」


 「自白も…無理ッスか?」


 「霊視した感じ、特殊な霊力が頭に流れてた。多分話したら頭が飛ぶ条件付き爆弾でも設置されてたんだろう」


 「抜かりないッスね」


 「佳織のお陰で被害は少ないし、個体数も見る限り数十匹程度、実験的に使われたんだろう」


 「次は何してくるんでしょうね?」


 「さぁ?ただまぁ――俺達は前々から言われた仕事だけこなせば良い」


 「()()()()()()っスか…」


 「アイツは霊術院の情報を持ってる他、在学中に俺にも気づかれずにヤバイ事に手を出してたっぽいからな、しゃーない」


 「本当に…そう思います?」


 朝日が昇る姿を見ながら京極は考える。

 だが頭は正直…回らなかった、どうすれば良いのかも。


 「仕方ないっしょ、俺等はコッチ側でアイツは向こう側なんだから」



 第二十四怪 河童の物の怪

感想・いいね・☆・フォローお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 相撲への執着に目がいきそうですが、脳への弊害や異能の間接行使が笑えないですね。遠隔からの複数操作・洗脳だけでも十分脅威な気がしますが……。  エリーさんのテンションの高さも強烈ですが、神木さんとやら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ