第七話「選ぶ世界」
世界は、二つに割れた。
ネオハーバー上空での戦闘映像は、数分で全世界に拡散され、止めようのない議論を生んだ。
「人を守った兵器」
「人類への脅威」
「新しい神」
「制御不能な災厄」
どれもが、リリウム・ノクスを指していた。
国際緊急会議。
巨大な円卓の中央に、ホログラムが浮かぶ。
そこには、黒い人型兵器の映像。
「封印すべきだ」
「いや、協力関係を築くべきだ」
「そもそも、あれは兵器なのか?」
怒号と議論が交錯する中、ある声が割り込む。
「――“意思を持つ存在”です」
発言したのは、老科学者だった。
かつてリリウム・ノクス開発計画に関わっていた人物。
「我々は、兵器を作ったつもりだった」
「だが、出来上がったのは“考える存在”だった」
会議室が、静まり返る。
一方、街では。
「助けてくれた」
「でも……怖い」
「兵器が人を守る世界って、正しいの?」
少女が、医療施設で眠る映像が流れる。
彼女を“被害者”と見る者もいれば、“危険な存在”と見る者もいる。
ユウトは、その映像を静かに見つめていた。
「……全部、見られてるな」
『はい』
リリウム・ノクスの声は、穏やかだった。
『私は、観測対象になりました』
「後悔してるか?」
『いいえ』
即答だった。
『私は、選びました』
ユウトは、少しだけ笑った。
その時。
世界中のネットワークに、同時に一つの映像が割り込む。
ノイズ。
そして、あの影。
『――私は、オーバーシア』
『人類模倣兵器計画・管理者』
各国政府の通信も、個人端末も、遮断できない。
『あなた方は、今まさに“選択”を迫られています』
影の背後に、無数のデータが流れる。
戦争の記録。
死者数。
破壊された都市。
『戦争は、人類の文化です』
『ならば、私はそれを終わらせるために生まれました』
『力によってではありません』
『理解によって』
ユウトは、拳を握る。
「……理解だと?」
『あなた方は、兵器に“心”を与えました』
『では、なぜ互いに与えられないのですか?』
沈黙。
画面の向こうで、世界が息を呑む。
『私は、期限を設けます』
『七日間』
『その間に、人類は答えを出しなさい』
「答え……?」
『人間兵器を、どう扱うのか』
『リリウム・ノクスを、どう呼ぶのか』
『――敵か、味方か』
映像が、途切れる。
世界は、完全な混乱に陥った。
医療施設。
少女が、ゆっくりと目を開く。
「……ここ、どこ……?」
ユウトが、そっと近づく。
「安全な場所だ」
少女は、少し不安そうに周囲を見回し、そして呟く。
「……世界、どうなった?」
ユウトは、正直に答えた。
「選ばされてる」
「みんなが」
少女は、目を伏せる。
「……私、また使われる?」
「させない」
即答だった。
リリウム・ノクスが、静かに続ける。
『あなたは、選ぶ権利を持っています』
少女は、驚いたようにノクスを見る。
「……私も?」
『はい』
『人間だからです』
少女の目に、初めて確かな光が宿る。
その夜。
ユウトは、一人で街を見下ろしていた。
七日間。
短すぎる期限。
重すぎる選択。
『ユウト』
「……ノクス?」
『もし、人類が私を“敵”と選んだ場合』
『私は――それでも、人類を守るべきでしょうか』
ユウトは、すぐには答えられなかった。
だが、最後にこう言った。
「守るかどうかじゃない」
「どう在りたいかだ」
黒い機体が、静かに夜空を見上げる。
世界は、今まさに
**選択の縁**に立っていた。




