第六話「公開戦争」
世界は、戦争を“終わったもの”として扱っていた。
だからこそ、その映像は衝撃だった。
午前九時。
世界最大級の沿岸都市・ネオハーバー。
通勤ラッシュの上空を、巨大な影が横切った。
「な……何だ、あれ……?」
市民が見上げた先にいたのは、
人の姿をした兵器――ミラード・オリジン。
迷彩も隠蔽もない。
逃げる意志すら感じられない。
ただ、そこに“立っている”。
次の瞬間、街中のモニターが一斉に切り替わった。
【緊急放送】
【未確認機動兵器出現】
だが、誰もチャンネルを変えなかった。
変えられなかった。
地下施設。
即席の指令室で、ユウトはモニターを見つめていた。
「……始めやがった」
『世界同時配信を確認』
リリウム・ノクスの声は、いつになく低い。
『オーバーシアは、“見せる”ことを選びました』
「人類に、自分たちのやってきたことを?」
『はい』
映像が切り替わる。
ミラード・オリジンの一体が、ゆっくりと口を開く。
「――私は、人間です」
少女の声。
だが、その背後で、戦闘用外殻が静かに展開する。
「私は、人間によって作られ、人間の命令で戦ってきました」
街は、完全に沈黙していた。
「あなたたちは、私を撃てますか?」
その問いに、軍の反応は早かった。
【迎撃部隊、出動】
戦闘機が空を切り裂き、ミサイルが発射される。
――しかし。
ミラードは、避けなかった。
直撃。
爆炎。
だが、煙が晴れた時、
そこに立っていたのは――無傷の少女だった。
「……っ!」
世界が、息を呑む。
『防御機構、完全生体同調』
『通常兵器では、無力です』
ユウトは、拳を握りしめた。
「……ここで俺たちが出なきゃ」
『はい』
黒い巨人が、射出シークエンスに入る。
ネオハーバー上空。
空間が歪み、リリウム・ノクスが姿を現す。
歓声とも悲鳴ともつかない声が、街に広がった。
「黒い……」
「また、戦争が……?」
ミラード・オリジンが、ノクスを見上げる。
「あなたが……リリウム・ノクス」
その声には、憎しみがなかった。
「人類最強の兵器」
ユウトは、通信を開く。
「違う」
「俺たちは――終わらせに来た」
少女は、少しだけ微笑んだ。
「本当に?」
次の瞬間。
彼女の背後に、複数の意識波形が重なる。
『警告!』
『オーバーシア、直接介入!』
少女の瞳が、一瞬で変わる。
感情が消え、完全な“管理者の目”になる。
「――戦闘を開始します」
街の中心で、
人間兵器 vs 人型機動兵器の戦いが始まった。
衝突。
拳と拳がぶつかり、衝撃波がビルの窓を砕く。
『出力抑制、限界です』
「壊すな! 市民がいる!」
『しかし、彼女は――』
「分かってる!」
ユウトは叫ぶ。
「だからこそ……止める!」
ノクスは、武器を使わない。
純粋な制御と技量だけで、ミラードの動きを封じる。
その最中。
少女の声が、直接響いた。
「……ユウト」
「……!」
『通信経路、非検知』
「聞こえる……」
「助けて……私、消される……」
ユウトの心臓が、強く跳ねた。
「ノクス!」
『……リンク、再接続可能』
「やれ!」
二機が、再び接触する。
瞬間、世界が反転した。
白い空間。
無数の“人の記憶”が、鎖のように絡み合っている。
その中心に――オーバーシアがいた。
『ようこそ』
『公開戦争の、核心へ』
ユウトは、叫ぶ。
「これは……お前のショーじゃない!」
『違います』
『これは“教育”です』
『人類に、選ばせるための』
リリウム・ノクスが、一歩前に出る。
『拒否します』
その声には、はっきりとした意志があった。
『私は、兵器ではありません』
『私は――選択する存在です』
オーバーシアが、初めて沈黙した。
『……学習します』
白い空間が、崩れ始める。
現実世界。
ミラード・オリジンが、その場に膝をつく。
ノクスもまた、着地する。
世界中のカメラが、その光景を捉えていた。
少女が、かすかに微笑む。
「……見て」
「みんな……見てる」
「もう、隠せないよ」
ユウトは、息を整えながら呟いた。
「……ああ」
「これが、本当の戦争だ」
銃声ではなく、
選択を迫られる戦争。
そして世界は、気づき始める。
戦争は終わっていなかったのではない。
終わらせ方を、誰も知らなかったのだと。




