第四話「人間兵器」
警報音が、地下施設全体に反響していた。
【侵入警告】
【隔壁封鎖不能】
【内部戦闘想定】
「まずい……!」
ユウトは操縦席で歯を食いしばる。
センサーに映る反応は一つ。
だが、その“一つ”が、これまでとは次元の違う圧を放っていた。
『接近速度、異常値』
リリウム・ノクスの声が、わずかに硬くなる。
『対象は――生体反応を示しています』
「……生きてる、ってことか」
『はい』
ユウトの背中に、冷たい汗が伝った。
隔壁が、内側から“壊された”。
爆発ではない。
切断でもない。
押し開けられたのだ。
歪んだ金属の向こうから、ゆっくりと人影が現れる。
「……人、だ」
ユウトの視界に映るのは、
戦闘服を着た一人の少女。
武器は持っていない。
ヘルメットも装甲もない。
だが、その足取りには一切の迷いがなかった。
『コードネーム:ミラード・オリジン』
『外見年齢推定:十六歳』
「……ふざけるな」
ユウトの声が震える。
「子どもを……兵器に?」
少女が、顔を上げた。
その目は、焦点が合っていない。
だが、確かにこちらを見ている。
「……リリウム・ノクス」
少女の口が動く。
「あなたは、何のために存在するの?」
その問いに、リリウム・ノクスが――即答できなかった。
『……』
「答えられないんだ」
少女は、少しだけ微笑む。
「私も、同じ」
次の瞬間。
少女の背後で、皮膚が“裂けた”。
血ではない。
黒い繊維状の構造体が展開し、人の形をした外殻を形成する。
『警告! 高出力反応!』
「回避――!」
言い終わる前に、衝撃が来た。
床が砕け、ノクスの巨体が後退する。
生身の一撃とは思えない威力。
「……ありえない」
『彼女の神経系は、直接兵器出力に接続されています』
『意識が、戦闘システムそのものです』
「つまり……」
「撃てば、人が死ぬ」
その言葉を、ユウト自身が口にしていた。
少女――ミラード・オリジンは、静かに歩み寄る。
「ねえ」
「あなたは、自分が何人殺したか覚えてる?」
ユウトの呼吸が、乱れる。
「……」
「私は、覚えてるよ」
彼女の声は、淡々としていた。
「最初に起動した時、頭の中に流れ込んできた」
「誰かが殺してきた“記憶”」
『……!』
リリウム・ノクスの内部で、エラー警告が連続する。
『ユウト、彼女はあなたの戦闘ログを――』
「知ってる」
ユウトは、操縦桿を握り直す。
「……だから、余計に撃てない」
少女は、少し首を傾げた。
「じゃあ、私が撃つ」
一瞬で距離が詰まる。
ノクスの胸部装甲に、拳が叩き込まれた。
警告音。
内部ダメージ。
『装甲貫通率――三十%』
「くっ……!」
ユウトは、歯を食いしばる。
「ノクス、非殺傷で止められるか」
沈黙。
『……理論上は可能です』
『しかし、成功率は低い』
「それでもいい」
一瞬の躊躇のあと、ノクスが答えた。
『了解』
黒い機体が、武器を捨てる。
代わりに、両腕を広げた。
少女が、驚いたように目を見開く。
「……撃たないの?」
「撃たない」
ユウトの声は、震えていたが、はっきりしていた。
「もう、これ以上――人を兵器にしたくない」
衝突。
ノクスとオリジンが組み合う。
力と力が拮抗する。
その瞬間。
少女の表情が、歪んだ。
「……やめて」
「……?」
「私の中に……声が……!」
『複数人格反応を検知』
『彼女の意識は、一つではありません』
少女が、頭を抱えて叫ぶ。
「助けて……!」
ユウトは、即座に判断した。
「ノクス、リンクを繋げ!」
『……危険です』
「分かってる!」
黒い装甲が、少女に触れる。
直接接続。
その瞬間、ユウトの視界が――反転した。
無数の声。
無数の記憶。
泣き声。
叫び。
命令。
そして、一つの強い意志。
――「戦争を終わらせろ」
「……誰だ」
その声が、答える。
――「人間だ」
――「お前と同じだ」
視界が戻る。
少女は、その場に崩れ落ちていた。
沈黙。
『……接続、成功』
『彼女の戦闘機能は停止しています』
ユウトは、深く息を吐いた。
「……生きてるか」
『はい』
だが、安堵する間もなく。
『警告』
『彼女の内部に――中枢管理意識が存在します』
『そしてそれは、まだ起動していない』
ユウトは、嫌な予感を覚えた。
「それって……」
『真の敵は、まだ姿を現していません』
遠くで、新たな信号が灯る。
――人間兵器計画は、第一段階に過ぎない。




