第三話「コピーされた魂」
夜明けの光が、破壊された工業地帯を淡く照らしていた。
白い瓦礫の山の中で、ひとつだけ――まだ“動いているもの”があった。
「……生きてる?」
ユウトは、慎重に機体を前進させる。
地面に半身を埋めたミラード。
白い装甲は砕け、内部の人工筋肉が断続的に痙攣していた。
『機能停止まで、残り四十秒』
リリウム・ノクスの声は淡々としている。
「……止めを刺すべきか?」
『命令があれば』
ユウトは、答えなかった。
人の声を真似るだけの兵器。
そう割り切れるはずだった。
だが、あの問いが頭から離れない。
――俺たちが守ったものって、何だったんだ?
「……回収する」
一瞬、ノクスの発光が揺れた。
『捕獲は非推奨』
「分かってる。でも……」
操縦桿を握る手に、力が入る。
「答えを聞かないと、前に進めない」
地下研究施設。
緊急用に再稼働させた簡易ラボの中で、ミラードは拘束されていた。
白い装甲の奥。
そこにあるはずのないものが、確かに存在していた。
「……脳?」
ユウトの声が震える。
人工神経と量子演算素子に包まれた“それ”は、
人間の脳構造を忠実に再現していた。
『正確には、人間の意識データを基にした疑似人格』
「疑似……?」
『生体ではない。しかし“記憶”と“感情反応”は本物だ』
沈黙が落ちる。
「……誰の意識だ」
ラボの照明が一段落ち、ミラードの音声装置が起動した。
「……ユウト」
微弱だが、はっきりした声。
「俺だ。……覚えてるか?」
ユウトの喉が詰まる。
その声。
戦争末期、ユウトの目の前で撃ち抜かれた男。
「……カイ」
『個体識別:元歩兵部隊・カイ・ミナセ』
リリウム・ノクスが、静かに告げた。
「……生きて、たのか」
「違う」
ミラード――いや、カイは、ゆっくりと首を振る。
「俺は死んだ。戦場でな」
「じゃあ、これは……」
「“残りカス”だよ」
苦笑するような音声。
「俺が死ぬ瞬間、記録された思考と感情……それを使って作られた」
ユウトは、拳を強く握りしめた。
「誰が……こんなことを」
「知らない。だが一つだけ分かる」
カイの声が、低くなる。
「俺たちは、戦争を終わらせるために作られたわけじゃない」
「……何?」
「人間に、“問い”を突きつけるためだ」
ラボのモニターに、新たなデータが表示される。
各地で起動準備中のミラード群。
『推定数――百二十体以上』
「……多すぎる」
『これは、序章に過ぎない』
リリウム・ノクスの声に、微かな迷いが混じる。
『ユウト。あなたは――』
言葉が途切れる。
「……どうした?」
『自己診断エラー』
『私の思考構造に、未定義の変数が発生している』
ユウトは、嫌な予感がした。
「それって……」
『“彼ら”を、敵として完全に否定できない』
沈黙。
機械が、迷っている。
「ノクス……」
『問いかけます、ユウト』
『“命とは何か”を定義できない存在が、命を奪う資格はあるのでしょうか』
ユウトは、すぐに答えられなかった。
だが、背後で警報が鳴り響く。
【緊急警告】
【未確認機動兵器、接近中】
カイが、静かに言った。
「……来たな」
「何が?」
「“本物”だ」
ユウトは、振り返る。
ラボの外、センサーが捉えた反応は――
これまでのミラードとは、明らかに違っていた。
『新型確認』
『コードネーム――ミラード・オリジン』
白ではない。
黒でもない。
人間の皮膚に酷似した外装を持つ、“完全に人に見える兵器”。
カイの声が、かすれる。
「……あれは」
「“生きている人間”を、使って作られた」
ユウトの背筋が、凍りついた。




