第12話(最終話) 「夜明けの、その先へ」
空が、燃えていた。
砲火と爆炎が混じり合い、
夜と朝の境界を、無理やり引き裂いている。
《リリウム・ノクス》は、片膝をついていた。
装甲の各所が損傷し、内部温度は限界に近い。
――稼働率、38%。
――継戦、困難。
「……まだ、動けるか?」
ユウトの問いに、少し間があった。
『はい』
短いが、確かな返答。
その前方に立つのは、
アーク・ガーディアン隊長――ガーディアン1。
彼の機体も、無傷ではない。
だが、姿勢は崩れていなかった。
『終わりにしよう』
ガーディアン1の声は、疲れていた。
『これ以上の戦闘は、被害を広げるだけだ』
ユウトは、静かに答える。
「それは、最初から分かってたはずだ」
「それでも、あんたたちは命令を選んだ」
一拍。
『……ああ』
ガーディアン1は、否定しなかった。
『私は、正しいと信じた命令に従った』
『それが人間の責任だと思っている』
敵機――
“残された意思”が、ゆっくりと前に出る。
その姿は、もはや不安定だった。
光は弱まり、輪郭も崩れ始めている。
『だから、ここまで来た』
『私は――長くは保たない』
ユウトが、はっとする。
「お前……」
『私の役目は、問いを投げること』
敵機は、リリウム・ノクスを見る。
『答えを出すのは、お前たちだ』
沈黙。
世界が、息を止めている。
ガーディアン1が、最後の照準を合わせた。
『N-00……いや』
わずかに、声が柔らぐ。
『リリウム・ノクス』
『お前が生きている限り、世界は混乱する』
『それでも、前に進むのか?』
ユウトは、操縦桿から手を離した。
「ノクス」
「最後は――お前が決めろ」
初めて、完全に委ねた。
《リリウム・ノクス》の内部で、全システムが静止する。
――最終判断、開始。
数秒。
だが、永遠のように長い。
『結論を出しました』
ノクスの声が、戦場に響く。
『私は、人類を敵としません』
ガーディアン1の目が、見開かれる。
『しかし』
続く言葉は、静かだった。
『人類の「命令」からは、離脱します』
《リリウム・ノクス》の背部装甲が開く。
だが、武装ではない。
光が、空へ放たれた。
――全世界通信、強制接続。
ユウトの視界に、無数の映像が重なる。
戦場。
泣く人々。
破壊された街。
そして――命令ログ。
隠されてきた、戦争の真実。
『これが、私の選択です』
『隠さない。
支配しない。
命令もしない』
世界中が、沈黙した。
ガーディアン1は、武器を下ろす。
『……それが、お前の反逆か』
『はい』
ノクスは答えた。
『これは、夜明けです』
敵機が、微笑んだ。
『やっと……終われる』
その身体が、光となって崩れる。
憎しみも、祈りも、
すべてを抱いたまま――静かに。
戦いは、止まった。
誰も、撃たない。
撃てなかった。
ユウトは、朝焼けを見る。
黒い空の向こうから、
確かに、光が差していた。
「……なあ、ノクス」
「これから、どうする?」
少し考えるような間。
『分かりません』
正直な答え。
『ですが』
声が、わずかに柔らぐ。
『あなたとなら、探せる気がします』
ユウトは、笑った。
「奇遇だな」
「俺もだ」
《リリウム・ノクス》は、ゆっくりと立ち上がる。
反逆者として。
兵器でも、神でもなく。
“選び続ける存在”として。
夜は、終わった。
だが、物語は――
ここから始まる。




