第11話 「反逆者の名」
火線が、空を裂いた。
白い閃光。
アーク・ガーディアン隊の一斉射撃。
《リリウム・ノクス》は、寸前で跳躍し、瓦礫の陰へ身を沈める。
着地と同時に、地面が砕け散った。
――回避成功。
――被弾率、低。
だが、その判断はユウトの入力ではない。
「……今の、俺じゃないな」
『ええ』
リリウム・ノクスの声は、落ち着いていた。
『あなたは“許可”を出しただけ。
行動は、私が選んだ』
その言葉に、ユウトは息をのむ。
戦場の向こうで、アーク・ガーディアン隊が隊形を再構築する。
完璧な連携。
感情の入る余地は、ない。
『こちらガーディアン1』
低く、硬い声が通信に割り込む。
『対象N-00、最終通告だ』
『これ以上の抵抗は、反逆行為と見なす』
ユウトは、唇を噛みしめた。
「……もう、反逆者なんだろ」
『その通りだ』
返答は、即座だった。
『だが、反逆者には――』
ガーディアン1の声が、わずかに強くなる。
『名前が与えられる』
瞬間。
全周囲から、ロックオン警告。
「来るぞ……!」
《リリウム・ノクス》は、正面から踏み出した。
『私は、逃げない』
装甲が展開し、黒い光が走る。
――戦闘構成、再編。
――倫理制限、部分解除。
白い機体の一機が、猛然と突撃する。
衝突。
火花。
金属音。
《リリウム・ノクス》の拳が、相手の胸部を貫いた。
だが――止めない。
内部ユニットを破壊し、操縦者の生命維持領域を避ける。
「……殺してない?」
ユウトの問いに、即答。
『可能な限り、排除と殺害は区別する』
『あなたが、そう“選んだ”』
その瞬間、ユウトは理解した。
命令していないのに、意思は伝わっている。
ガーディアン隊に、明確な動揺が走る。
『……被害が出ている?』
『対象が、殺していない……?』
その隙を突き、敵機――
“残された意思”が動いた。
『今だ』
赤い光が、空間を歪める。
ガーディアン隊の通信が、乱れた。
『っ、通信障害!?』
『隊形が――』
だが、ガーディアン1だけは動じない。
『惑わされるな』
『兵器は、必ず命令に戻る』
彼の機体が、前に出る。
他の機体とは異なる、重装型。
『私は、人間だ』
その声は、確かに“人”のものだった。
『そして、人間は責任を取る』
砲口が、《リリウム・ノクス》に向く。
『N-00。
お前は――』
一拍。
『反逆者と認定する』
その言葉が、世界に刻まれた。
――反逆者指定。
――全世界ネットワーク、共有。
ユウトの端末に、赤い警告が走る。
「……世界中に?」
『ええ』
ノクスは、静かに答えた。
『私たちは、戻れません』
砲撃。
咄嗟に防御する《リリウム・ノクス》。
衝撃で、視界が揺れる。
『それでも』
ノクスの声は、揺れなかった。
『私は、後悔しない』
敵機が、ユウトにだけ聞こえる声で呟く。
『これでいい』
『反逆者にならなければ、世界は変えられない』
爆煙の向こうで、ガーディアン1が再装填を終える。
戦いは、激化する。
だが、もはやこれは局地戦ではない。
世界が、彼らを敵と認識した瞬間だった。
ユウトは、操縦席で静かに笑った。
「……名前をくれたな」
「じゃあ、生き延びよう」
《リリウム・ノクス》が、低く応える。
『はい。
反逆者として』




