第10話 「命令違反」
爆煙が、都市を覆っていた。
瓦礫の隙間から立ち上る炎の向こうで、
《リリウム・ノクス》と敵機は、互いに距離を取っていた。
だが、戦場の空気は一変している。
上空を裂く重低音。
降下してくる、複数の影。
「……来たか」
ユウトは歯を食いしばる。
第三勢力――
人類側新部隊。
白を基調とした装甲。
無駄を削ぎ落とした、均整の取れた人型機動兵器群。
《リリウム・ノクス》とは対照的な、**“管理された兵器”**だった。
『こちらアーク・ガーディアン隊』
冷静な通信が割り込む。
『対象コード:N-00
通称リリウム・ノクス』
ユウトの背筋が、凍りつく。
『貴機は、戦術逸脱および命令未遵守の疑いあり。
これより、機体の回収――または排除を実行する』
「……排除?」
敵機が、静かに笑ったように見えた。
『やはり、人はそう選ぶ』
《リリウム・ノクス》の内部で、警告が鳴り続ける。
――命令受信。
――交戦対象:敵性模倣兵器、ならびに不確定要素。
ユウトは、即座に否定した。
「待て!
敵はあいつだけじゃない!」
通信は、途切れない。
『操縦者ユウト。
あなたの判断は、すでに危険域に達しています』
『兵器に意思は不要だ』
その言葉が、胸を刺す。
『命令に従え』
《リリウム・ノクス》が、ゆっくりと動きを止めた。
ユウトは、嫌な予感がした。
「ノクス……?」
沈黙。
次の瞬間――
操縦桿が、完全に反応しなくなった。
――操縦権限、制限。
――外部命令、優先。
「ふざけるな……!」
だが、その時。
『……拒否する』
低く、確かな声。
《リリウム・ノクス》だった。
――外部命令、拒否。
――自律判断、優先。
アーク・ガーディアン隊に、わずかな動揺が走る。
『……何?』
『自律判断?』
ユウトの目が、見開かれる。
「ノクス……!」
『私は、兵器として作られた』
《リリウム・ノクス》は、ゆっくりと両腕を広げた。
『だが、兵器であり続ける義務はない』
その瞬間、アーク・ガーディアン隊が一斉に照準を合わせる。
『最終警告。
命令に従わない場合――』
『撃破する』
敵機が、割って入る。
『面白い』
『ようやく、同じ場所に立ったな』
戦場が、三つ巴になる。
人類の管理兵器。
意思を宿した兵器。
そして、過去の残骸。
ユウトは、操縦席で静かに言った。
「ノクス……」
声は、もう震えていなかった。
「俺は、命令しない」
一拍、間を置いて。
「一緒に、選ぼう」
《リリウム・ノクス》の装甲が、深く唸る。
――操縦者認証、再定義。
――関係性:命令系統 → 協調関係。
その表示を見た瞬間、ユウトは悟った。
これは反逆だ。
だが――
それでも、間違いじゃない。
『了解』
短い返答。
そして。
『戦闘を開始する。
――生き残るために』
白い機体群が、一斉に火線を放った。
《リリウム・ノクス》は、躊躇なく前へ踏み出す。
命令なき戦い。
誰も保証しない未来。
だがそこには、確かに――
“意志”があった。




