第03話:取調室(落とし屋、山村静一)
警視庁地下、七課専用第二取調室。
俺が特定したリストに基づき、別件で引っ張ってきた組織の末端構成員が、
ふてぶてしくパイプ椅子に座っていた。
「あ~ん? 何度も言わせんなよ。俺は知らねえ。カツ丼まだか?」
ミラーガラスの向こうで、俺は焦れたように歯噛みしていた。
「ゴリさん! あの若い刑事じゃだめですよっ! あの野郎が時間を稼いでいる間に、子供たちが…!」
「黙って待ってろ。ネット」
ゴリさんは冷静にミラーガラスを見据えている。
「俺たちは、犯罪者といえ命を奪う権限を背負ってる。だからこそ、
俺達は石橋を叩き割るほど裏を取る。…焦りは、お前を殺すぞ、ネット」
ガチャリ、と扉が開いた。
コートの襟を立てた男が一人、静かに入ってくる。
第七課のボスの右腕。最高の「落とし屋」、山村静一。
通称「山さん」だ。
山さんは、それまで取調をしていた、若い刑事のかわりに構成員の正面に座ると、
ただ静かに書類に目を通している。
湿った沈黙が、男の自信を少しずつ削っていく。
目の前のただならぬ雰囲気の刑事に構成員が痺れを切らした。
「……なっ、なんだよ、アンタは」
山さんは顔を上げず、呟くように言った。
「君の故郷…東北だったかな。雪深いところだ。今年の冬は、帰らんのかね」
「…!?」
「…お…俺だって帰れるものなら帰りてぇよ!」
山さんは、そこで初めて構成員の男と目を合わせた。
その目は、全てを見透かすような、深淵の静けさを湛えていた。
「『帰りたい』のに帰れないか…。君の能力は『小火』。
組織じゃ使い走りだろう。君が今回のヤマ(誘拐)に直接関わっていないことは、
我々も分かっている」
「な、なら!」「だが」
山さんは男の言葉を遮った。
「君は、子供たちがどこに『仕舞われて』いるかは知っている。違うかね?」
男の顔から血の気が引いた。
「ずいぶん、着古したセーターを大事に着ているな。三日前、君の母親から小包が届いていた。受け取れなかったようだが、荷物は、手編みのセーターだったぞ。」
山さんは立ち上がり、男の肩にそっと手を置いた。
「…君にも、子供たちにも親がいる。彼らも君と同じだ。
『帰りたい』と思っているんじゃないのかね」
男はわなわなと震え、やがて顔を覆って泣き崩れた。
「…湾岸の、第八倉庫だ…。俺は、俺は知らなかったんだぁぁぁ…!」
山さんは無言で取調室を出た。
廊下で待っていた俺たちに、短く告げる。
「ゴリさん、ネット。…裏は取れた。子供たちは、まだ生きている。急ぐぞ」




