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第76話 なんでやねん!


 タクシーが路肩に停車し、ハザードを焚いた。


 運転手が言った通りの金額を、わたらいさんが払っている。そのお札の擦れる、かすかな音と小銭の落ちる音だけを、ただただ聞いていた。


 帰りも困るだろうから、ここで待っていると、優しく笑ってくれた運転手にお礼を言いながら、僕らは転がるように外へと飛び出した。




 看板に書いてあった名前から想像したような場所とは違っていた。


 倉庫だと思っていた。

 コンテナとかプレハブとか。


 ただ、そういうものが、規則正しく並んでいるような寂しい場所だと思っていた。


 でも、タクシーを降りて見上げた建物は、どこにでもあるビルみたいだった。


 確かに、少しデザインは変わっている。

 知っている建物にあえて例えるなら、家電量販店のそれに近いかもしれない。


 ただ、ひたすらに大きな四角い建物。大きな看板と、壁面と、ロゴマークがやたら目につく。


 いざ、たどり着いたそこは、清潔感のあるガラス張りの入り口で、空調の効いたひんやりとした空気が扉の外までかすかに漏れていた。


「なんか思ってた場所と違うね」

 わたらいさんが、僕の真横を同じペースで歩いている。


「うん、なんか意外と綺麗だし、明るくてちょっと安心した」

 僕は笑みさえ浮かべて、彼女にそう答えた。

「とりあえず中に入ってみよう」


 ガラス張りの入り口は、一見普通の自動ドアに見えた。


 でも近づくと、ドアノブがある。

 そして――。

 


 入り口手前に、おそらくはカードキーか何かをタッチして解除するであろう端末が見えた。


「嘘……」

 わたらいさんが、絶句する。

「ぺこの鍵、入れないんじゃない?」


 ――入れない?

 プラモデルの中に、あんな風に隠しておいて。

 僕の相棒に大金を払わせて。

 ここまで来させておいて。


 中に入れず、永遠に秘密の答えはわからないのかもしれないという絶望よりも、兄ちゃんへの純粋な怒りの方が、はるかに勝っていた。


「……つくづく、人を馬鹿にする鍵だ」


 僕はわたらいさんを驚かせないように、なるべく声の調子を落とし、そうつぶやいた。


 本当は、腹の底からめちゃくちゃに、言ってはいけない言葉を思いつく限り、吐き出してしまいたかった。


 兄ちゃんの、あの意地悪なニヤニヤ顔が浮かぶ。


 今朝、ママに無理矢理つけられた兄ちゃんの遺骨ネックレスの鎖を、力任せに引きちぎってやりたかった。


「……これ、使えないかな」


 僕は半ば自暴自棄になって、手の中の鍵を、端末のセンサー部分に叩きつけるように押し当てた。


 鍵のグリップにあるオレンジ色のロゴマーク。端末にも、同じロゴマークがある。


 同じマークなんだから。

 これも、鍵なんだから。

 何かの間違いで開いてくれ、と祈る。


 けれど、端末は無機質な沈黙を保ったままだ。

 警告音すら鳴らない。


 僕の持っているものが、ここを開ける権利を持たない、ただの金属片であることを突きつけてくる。


 情けなくて、視線が泳ぐ。

 その視線の流れで、ガラス扉の端に貼られた、一枚のステッカーが目に入った。


『内覧・見学受付中 10:00~19:00』

『お気軽にお入りください。スタッフがご案内いたします』


 正確な時刻は分からない。

 でも、最後にタクシーで見た時間から逆算すれば……多分、まだ、間に合う。


 ドアの横には、センサー用の端末とは別に、小さな呼び出しボタンが付いている。


「ぺこ、これ……」

 わたらいさんも、それに気づいたようだった。

 僕は頷き、震える指を伸ばした。

 決意を込め、そのボタンを強く押し込んだ。


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