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第34話 魂の触れ合う場所※


※刺激的な描写あり


「ふ、んぅ……っ」

 堪えきれないような、熱を帯びた吐息が、わたらいさんの喉の奥から漏れる。


 僕は、彼女の耳がその身体のどこよりも、深く、鋭く僕の献身を受け入れていることを知った。


 わたらいさんが特にうっとりとしていた、耳たぶのさらに小さな窪みのところを、執拗に揉み続ける。


「ん、く……っは、あぁ……」


 わたらいさんの口が半開きになっている。

 それは、もう恥ずかしいという理性の制御すら失いかけている証拠だった。

 

 その崩壊した表情に、僕は支配欲を満たされていく。


 わたらいさんは、快感のあまり、嗚咽と共に涎を僅かに口端から垂らし、僕の肩に顔をぐずぐずと擦りつけた。


「……っ、ぺこ、ぺこぉ……っ」


 そして、彼女の幼児的な本能の要求に従うように顔を近づけると、迷わず僕の下唇に吸い付いた。


 それはキスというよりも、乳首を吸う幼児のように、安心の糧を求める本能的な吸引だった。


「ん、んっ……ちゅっ……んむ」


 僕はその純粋な吸引に、微動だにせず耐えた。


 彼女の顔は理性の仮面が溶け、快感に蕩けた、誰にも見せてはならない醜態を晒している。僕はその顔をまじまじと、無遠慮に見つめた。


 やがて、その視線に気づいたわたらいさんは、はっと我に返り、羞恥に震える両手で顔を覆い隠し、堰を切ったように泣き出した。


「見、ないで……っ、やだ、やめて……っ」


 その泣き顔を見た瞬間、僕の全身に痛みが走った。それは、かつて僕が幻影にキスしようとして激突した、あのときと同じ種類の痛みだった。


 ああ。これは、いずれ冷める夢だ。


 僕は、彼女から、ふと顔を背けた。

 この快感が、彼女の孤独を上塗りするための、一時的な麻酔でしかないことを僕は知っている。


 いずれ、この夢は冷める。



「……ごめん。やめる?」


 僕が改めて尋ねると、肩で息をしているわたらいさんがふるふると首を横に振った。

 「……もっと」


 「え……?」


 聞き取れないほどの小さな声ではなかったのに、僕は意図的に顔を傾けて聞き返した。

 彼女の口から出た言葉だと、にわかには信じられなかったからだ。


 両手を下ろしたわたらいさんの顔が、耳まで真っ赤になっている。

 唇を噛み締め、ほとんど泣きそうな表情で、再び口を開いた。

「…….もっと、やって……」


 僕はその甘えと要求に、理性が吹き飛びそうになるのをぐっと耐える。


 「わかった。ぐちゃぐちゃにしてあげる」


 僕は、そう告げると、わたらいさんの耳を両手で塞いだ。そして、耳を塞いだまま、彼女の唇に支配のキスを押し付けた。


 軽く唇に触れるだけのキスを、わざと音を立てて繰り返す。


「は、やて……っ、ちゅ、って、おと……っ」


 わたらいさんの声が、キスの隙間から漏れる。


「あたまの、なかで、ひびいて……っ。すごく、っ、は、はずかしい……っ」


 音響的な暴力に理性が追い詰められ、羞恥心から再び抵抗の言葉が絞り出される。

 僕は、彼女の理性が音という形のない暴力に押しつぶされていくのを知り、満足した。


 その戸惑いに満ちた顔を見ながら、僕は意図的に一瞬の間を取った。


 そして、キスを深くする。耳を塞いだまま、唇のわずかな隙間から、そっと、わたらいさんの口内へ舌を侵入させた。


「っ……やめ……待っ、て……!」


 わたらいさんの口からは、混乱と拒絶が混ざった悲鳴が漏れた。

 その身体は、予想外の刺激に激しく跳ね上がる。最後の理性を失い、僕の腕の中で痙攣した。


「だめ、これ……っあたま、ぐちゃぐちゃになるっ」


 わたらいさんの小さな手が、僕の頬に触れた。ビンタされると身構えたが、その手は、そのまま頬を滑り落ち、力なく僕の肩に下ろされた。

 抵抗の終焉だった。


 僕はすぐに舌を引き、静かなキスを数回した後に、顔を離した。


 完全に力を失い、ぐったりと溶けていくわたらいさんの身体を、僕は二人の境目が分からないくらいに引き寄せる。


 彼女の頭が、僕の肩に乗せられる。その口元からは、安堵と極度の気持ちよさによって制御を失った唾液が、ごく微かに、筋になって僕の肩に流れ落ちてきた。


 その、微かな湿り気を感じる。


「……っは、あ……ごめ、ん……服、汚れ……っ」


「いいよ、そんなこと」


 僕はそれを不快に思うどころか、むしろ深い喜びと、最高の献身の証として受け入れた。


「気持ちよくて、全部我慢できなくなっちゃったんだね、かわいい……」


「……んっう……はや、て……はやてぇ」


 かつては支配のために呼んでいた僕の名前を、今は安堵と甘えの吐息に変えて、彼女は何度も繰り返す。


 彼女は、まるで母親に縋る幼児のように、僕の衣服の裾を小さな手で、ぎゅうと握りしめていた。


 この無防備な身体、この甘える声、この深い安堵。これこそが、僕が全てを賭して手に入れたかったものだった。


 肉体の接触としては最も淡白な場所。

 それでも、僕らには魂が直接触れ合うような、極めて濃密な接触だった。


 そして、僕は彼女の耳から手を離すと、いたずらが成功した子供のように、わずかに顔を傾けた。


 わたらいさんは、驚愕に目を見開く。しかし、それは恐怖ではなく、次なる快感の支配を予告する、甘美な衝撃だった。


 僕は一瞬の躊躇もなく、解放されたばかりの耳介を、温かい吐息と共に、唇でぱくっと軽く含んだ。


 「……っひゅ!」


 堪えきれない、彼女の短く鋭い悲鳴が、僕の口の中でくぐもった音に変わる。


 僕はすぐに唇を離し、わたらいさんの驚愕した顔を覗き込んだ。


「おしまい」


 僕はコミカルに誤魔化すように囁いた。そして、真っ赤になった耳たぶを、慈しむように、親指でそっと一拭いした。


「……っ」


 わたらいさんは言葉を失い、ただ目を見開いたまま、僕を見つめ返した。


「ぺこっ……ぺこぉ……」


 彼女は、縋るように僕の名前を呼んだ。まるで催眠術にかかったかのように、自らの顔を動かす。


 快感に支配された耳たぶを、僕の口元に、まるで餌を求めるかのように押し付けた。

 そして、僕の唇の上で、耳介を微かに擦り付ける。


 それは僕の知らない彼女のトラウマを、唇という熱で上書きしてほしいという、悲鳴にも似た無意識の要求だった。


 僕はその大胆な行動にも微動だにせず、彼女の顔を両手で優しく掴んだ。


 そして、顔を上げさせる。

「だめ」

 僕は、そう言って顔をじっと覗き込む。彼女の瞳は快感で蕩け、焦点が定まらない。


「おしまい」

 僕は、そこで支配を打ち切った。


 この快感を際限なく与え続ければ、彼女は完全に僕の支配下に落ちる。しかし、僕は敢えてその最後の扉を閉じた。


 わたらいさんは、快感の淵から無理やり引き戻され、はっと我に返ったように唇を噛み締めた。


「…………んぅ……ぺ、この、バカ」


 彼女はとどめのように僕の胸を掌で叩いて、嗚咽混じりに呟く。それきり言葉を発しなくなった。

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