第8話「初めての配当金、そして笑顔の理由」
今回は「配当金」をテーマにしました。
売らなくても利益が得られる、この仕組みを知ると投資の楽しさが倍増します。
ファンタジー世界でいうなら“働かない収入”ですが、それは企業が努力してくれるからこそ得られるもの。
次回は、配当金で得た余裕資金をどう活かすかに注目です。
港町の朝は、潮の香りと商人たちの掛け声で始まる。
リゼリアはいつものように、港沿いのカフェで魔導新聞を広げていた。
その一面に、小さな見出しが目に飛び込む。
『グリーン・リーフ商会、株主への配当を発表』
「……あ、これ、私が持ってる株じゃない」
思わず声が漏れる。
グリーン・リーフ商会――森林資源を管理し、薬草や木材を扱う企業。
リゼリアが勇者を辞めた直後、「環境系の企業はこれから伸びる」と聞き、少しだけ買っておいた銘柄だ。
昼過ぎ、ギルドの取引所へ寄ると、窓口の書記官が彼女を呼び止めた。
「リゼリア殿、こちらをお受け取りください」
差し出されたのは、小さな袋。
開けてみると、中には金貨が数枚と、封蝋のついた書状が入っていた。
『拝啓、株主の皆様へ。この度、当商会は業績好調により、利益の一部を配当として還元いたします。』
「……これが、配当金……?」
株価の売買で得る利益とは違い、ただ株を持っているだけで受け取れるお金。
それは、冒険で例えるなら――戦わずして得た戦利品のようだった。
その夜、宿の食堂でガイアが袋の中身を見て目を丸くした。
「なんだこれ? 売ったわけじゃないのに金が増えてるのか?」
「そう、配当金っていうの。株を持ってる人は、その企業の仲間みたいなものだから、利益が出たら分けてもらえるの」
「……つまり俺たち、働かずに飯が食えるってことか?」
「言い方が悪いけど、まあ……そうね」
ガイアは豪快に笑い、配当金の一部で酒を注文した。
リゼリアも少し笑ったが、心の奥で別の感情が湧き上がっていた。
「……これは、企業が成長してくれるおかげで得られる恩恵。だから私も、その成長を応援できる銘柄を選びたい」
勇者だった頃は、人々を救うために剣を振るった。
今は、人々や企業の未来を信じて、金貨を預ける。
形は違っても、守りたいものは同じだった。
数日後、リゼリアは新しい銘柄探しに出かける。
港を離れ、商会の集まる中央都市へ向かうその背中は、少しだけ誇らしげだった。
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【今日の学び】
•配当金は株を持っているだけでもらえる利益
•売買益とは別の“インカムゲイン”
•成長を信じられる企業に長く投資するのも大切
リゼリア、初めての配当金でニコニコ回でした。
株はギャンブルではなく、企業の成長を信じる行為でもあります。
次は中央都市での「新銘柄探し」回に入ります。
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