第7話「初めての判断ミス、そして損切り」
今回は「損切り」をテーマにしました。
株をやっていると、「まだ戻るはず」と思って持ち続けてしまうことがありますが、それが傷を広げる原因になります。
ファンタジーでも現実でも、“撤退”は立派な戦略のひとつです。
港町の広場に、株価速報を映す巨大な魔導スクリーンが設置されていた。
リゼリアはガイアと共に、その数字を見上げている。
「……アイアン・ワークス社、株価が下がってる?」
昨日のニュース――鉱山での魔物暴走――で、鉄の供給は一時的に止まった。
リゼリアは、鉄の希少価値が上がる→武器の値段が上がる→会社の利益が増える、と読んでいた。
だが現実は逆だった。
魔物が暴れた影響で、工場が被害を受け、生産そのものが止まってしまったのだ。
「……完全に読み違えたわね」
胸の奥に、重く冷たい感覚が広がる。
まだ損失は小さいが、放っておけばさらに広がるかもしれない。
横でガイアが腕を組む。
「どうする? 回復魔法みたいに、待てば戻るんじゃないのか?」
「……株には“回復魔法”なんてないの。間違えたら、その場で治療――つまり損切りするしかない」
リゼリアは深く息を吸い、ギルドの取引所へ向かった。
取引所の中は、怒号と紙の束が飛び交う戦場だった。
カウンターの向こう、書記官が手早く羽ペンを動かしている。
「アイアン・ワークス社の株、すべて売却します」
「売却価格は昨日よりも──」
「分かってます。損です。でも……これ以上は広げられない」
羽ペンが紙に走る音と同時に、リゼリアの手元から証書が消えた。
代わりに戻ってきた金貨は、買った時よりも少ない。
損切り――頭では理解していたが、実際にやると胃が重くなる。
だが同時に、心の中で小さな安堵もあった。
広場へ戻ると、ガイアが不思議そうに尋ねた。
「それでいいのか?」
「うん。間違いを認めるのは勇気がいる。でも、損失が大きくなる前に動けたのは正解。投資は戦争と同じで、撤退も戦略のひとつよ」
ガイアは少し考えてから、にやりと笑った。
「勇者だった頃より、よっぽど冷静だな」
「……だって今は、仲間の命じゃなくてお金を守ってるんだもの」
リゼリアは笑いながらも、胸の奥に新しい決意を宿す。
次は、同じ失敗はしない――そう心に誓って。
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【今日の学び】
•読みが外れることは必ずある
•株価は必ず回復するわけではない
•損切りは資金を守るための防御魔法
リゼリア、初めての損切り回でした。
感情と戦うことが、投資の最大の壁かもしれません。
次回は、この損切りで残った資金をどう再投資するのか、そして新たな銘柄との出会いを描きます。
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