第3話 勇者、職を失う
投資は一発勝負ではなく、コツコツと積み上げるもの。
今回のテーマは、リスクを減らすための「分散投資」!
リゼリアは、かつての“パーティー”にたとえながら、勇者アインにその重要性を語ります。
魔法の力も、仲間の力も、一点集中よりバランスが大事──投資も同じ!?
リゼリアが株式投資にのめり込んで数年。彼女は相変わらず街のはずれの小屋で、静かな投資生活を送っていた。
魔王を倒した“元・勇者パーティー”の名前は、すでに人々の記憶から薄れつつある。
勇者として表舞台に立っていた男――アインも、今ではただの無職だった。
――そのアインが、久しぶりにリゼリアのもとを訪ねてきた。
「よう、リゼ。元気か?」
扉を開けた瞬間、リゼリアは相手の顔を見てわずかに目を見開いた。
よれたマントに、くたびれた革のブーツ。どこか陰のある表情に、かつての輝きはない。
「……あら、勇者さま。どうしてこんな辺境まで?」
「いや、その……。ちょっと相談があってな」
アインは頭をかきながら、部屋に通された。
薪の香りが漂う暖かな室内。テーブルの上には魔導端末と投資本が並び、壁には“保有株ポートフォリオ”と書かれた羊皮紙が貼ってある。
「まさか、お前……投資家になったのか?」
「ええ、まあ。魔法で稼ぐ時代はもう終わりよ。これからは金融ね」
リゼリアは椅子に腰掛け、紅茶を口にした。
そして問いかける。
「……それで? アイン。あなた、今は何を?」
「……勇者を辞めた」
一瞬、時間が止まったかのような静けさが部屋を包む。
「は?」
「いや、その、魔王も倒したし、ギルドも解散になったし……。王宮からの手当も止まって……」
「まさかとは思うけど、今……無職?」
「……まあ、そうなるな」
リゼリアは思わずため息をついた。
あれほど未来の話をしても聞く耳を持たなかった彼が、まさか本当に何の備えもしていなかったとは。
「……で、どうするの? まさかうちに転がり込むつもりじゃないでしょうね?」
「いや、そこまでは……。でも実は、お前に聞きたいことがあってさ」
アインは、腰のポーチから一枚のチラシを取り出した。
【“未来を見据えた資産形成セミナー”開催!】
【〜株で築く自由な人生〜】
「……投資って、俺にもできるのか?」
それを見たリゼリアは、少しだけ口元をゆるめた。
「できるわよ。だけど、魔王より怖い“メンタルの戦い”になるけどね」
「それでもいい。もう、剣を振るう時代じゃないんだろ?」
静かにうなずくリゼリア。
かつて“物理最強”だった勇者が、今、己の無力さを噛みしめながら、経済という新たな戦場に足を踏み入れようとしていた。
「とりあえず、証券口座を作るところから始めましょうか。身分証明書は持ってる?」
「冒険者カードなら……」
「OK、まずはそれで仮登録できるわね」
魔法の使い手と、かつての剣の英雄。
二人は今、新たな“人生の再スタート地点”に立っていた。
それはもう、剣も魔法も必要のない、“知恵と忍耐”の世界。
勇者アイン、投資家デビューの第一歩――。
投資の基礎のひとつ「分散投資」、いかがでしたか?
「全財産を一つの国の株に突っ込む」……エルフでもさすがにやらないようです(笑)
次回は、「配当金」について。投資のリターンってどうやって得られるの?
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