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第37話 市場は、人の心でできている

お久しぶりです!

いつも読んでいただきありがとうございます。


相場が崩れる時、

一番先に壊れるのは数字ではなく「人の心」なのかもしれません。


今回は、

そんな“恐怖の中で何を信じるのか”という話です。


第37話、よろしくお願いします。

「……つまり、お前は“まだ下がる”と思っているのか?」


 薄暗い会議室の中で、ガルドが腕を組みながら言った。


 机の上には、大陸各地の相場表。


 赤い数字が並んでいる。


 誰が見ても、空気は悪かった。


「正確には、“まだ恐怖が終わっていない”」


 リゼリアは静かに答えた。


 窓の外では雨が降っている。


 市場が荒れる日は、いつも天気まで重たく感じる。


「価格は結果に過ぎない。先に壊れるのは、人の心」


 その言葉に、室内が少し静かになる。


 最近の暴落で、多くの投資家が市場から消えた。


 利益を失った者。


 借金を抱えた者。


 未来を信じられなくなった者。


 数字の下落よりも深刻なのは、“もう挑戦したくない”と思う人間が増えることだった。


「だから私は、今が底だとは思わない」


「じゃあ売るのか?」


「違う」


 リゼリアは相場表の一枚を指でなぞる。


「選ぶ」


「……選ぶ?」


「崩れるものと、残るものを」


 沈黙。


 外の雨音だけが響く。


「市場全体を信じる時期は終わった。これからは、“本当に価値のあるもの”だけが残る」


「綺麗事に聞こえるな」


 ガルドはため息混じりに笑った。


「この状況で理想論を語れるのは、お前がエルフだからか?」


「長く生きているから分かることがあるだけ」


 リゼリアは窓の外を見た。


「熱狂は、必ず終わる」


「……」


「でも、必要なものは残る」


 その言葉は、どこか勇者時代の彼女を思わせた。


 魔王討伐の時代もそうだった。


 一時の感情で集まった兵士は消えた。


 名誉を求めた貴族も消えた。


 けれど。


 本当に誰かを守りたかった者だけは、最後まで立っていた。


「投資も同じ」


 リゼリアは小さく呟いた。


「最後に残るのは、“欲望が強い者”じゃない。“信じ続けた者”」


 ガルドは何も言わなかった。


 ただ、机の上の資料を見つめる。


「……で、どこを買う?」


 その一言で、空気が少し変わる。


 リゼリアは一枚の資料を前へ出した。


「地方魔導通信会社、“ルーメン通信”」


「は?」


 ガルドが眉をひそめる。


「こんな小さな会社を?」


「小さいから」


「理由になってない」


「今はね」


 リゼリアは静かに笑った。


「大手は利益の出る都市しか見ていない。でも、この会社は違う」


 資料には、辺境地域への通信網拡大計画が書かれていた。


「赤字続きだぞ」


「短期ならそう見える」


「……また長期投資か」


「未来に必要なものは、最初はいつだって不人気」


 リゼリアは椅子に背を預ける。


「誰も見向きしない時に支える人間がいなければ、新しい時代は来ない」


 ガルドは呆れたように頭を掻いた。


「投資家っていうより、もはや支援者だな」


「似たようなもの」


 その時だった。


 会議室の扉が勢いよく開く。


「リゼリア様!」


 若い商会員が息を切らしながら飛び込んできた。


「王都中央銀行が緊急声明を発表しました!」


 空気が凍る。


「内容は?」


「……大手商会数社への資金供給停止です」


「っ……!」


 ガルドが顔を上げた。


「本格的に始まったな……」


 連鎖。


 一つ崩れれば、次も崩れる。


 市場とは、そういう場所だ。


 リゼリアは静かに目を閉じた。


 恐怖は伝染する。


 噂は現実になる。


 そして人は、“誰かが売る前に”売ろうとする。


 市場は数字で動いているように見えて。


 本当は、人の感情でできている。


「リゼリア、どうする」


 問いかけに、彼女はゆっくり目を開いた。


「簡単」


「……何をする気だ?」


 リゼリアは静かに立ち上がる。


 その金色の髪が、窓から差す灰色の光を受けて揺れた。


「恐怖の中で、未来を買う」


 雨は、まだ止んでいなかった。

第37話でした。


暴落回が続くと、

書いている側まで胃が痛くなります。


でも、

市場って結局「人」が作っているものなんですよね。


数字だけを見ると冷たく見える世界なのに、

実際は恐怖や期待や欲望で大きく動いていく。


リゼリアは、

そんな中でも「未来に必要なもの」を見ようとしています。


短期では評価されなくても、

あとから「あれは必要だった」と言われるものって、

現実にも結構ある気がします。


次回は、

中央銀行の発表でさらに揺れる市場と、

ある“大手商会”の動きが中心になります。


引き続き、

『勇者を辞めたエルフは株を買う』をよろしくお願いします。

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