第29話 エルフ、志を共にする者と出会う
どんな理想も、一人では形にならない。
今回は、リゼリアが“志を同じくする仲間”と出会う物語です。
「あなたが……“白銀のエルフ”、リゼリア様ですね?」
静かなカフェの奥、ひとりの青年が立ち上がった。
亜麻色の髪に、透き通るような瞳。
だがその眼差しには、年齢以上の覚悟が宿っていた。
「ええ。あなたが、通信塔の設計者――カナン・フィール?」
青年はうなずき、緊張した様子で手を差し出す。
「お会いできて光栄です。あなたの理念に共感しました。
“情報を独占せず、共有する社会”――僕も、それを信じています」
リゼリアはその手を取った。
魔法を通じて感じるのは、清らかな魔力と、強い信念。
「あなたのような若者が増えるのは、嬉しいことね」
「僕は……王国軍の技術班にいました」
カナンは苦い笑みを浮かべた。
「通信魔法を戦争に使う計画を見て、怖くなったんです。
人を繋ぐための技術が、人を殺すための道具になるなんて……」
リゼリアは黙って頷いた。
その気持ちは、痛いほど分かる。
自分もかつて、力を“戦いのため”に使ってきたのだから。
「だからこそ、あなたと一緒に“共有の塔”を作りたい。
国に属さず、全ての人が使える通信網を――!」
カナンの声は熱を帯びていた。
彼のような人間こそ、この時代に必要な存在だとリゼリアは思った。
「いいわ。私の資金と魔力を使って、あなたの技術を広げましょう」
二人は契約書に魔力の印を刻む。
光が広がり、新しい約束が結ばれた。
「リゼリアさん……これは、“投資”というより“信頼”ですね」
「ええ。信頼こそが、最大の投資よ」
その瞬間、通信塔の光が街を包み、風が優しく吹いた。
まるでこの出会いを祝福するかのように。
リゼリアは空を見上げ、微笑んだ。
「ここからが本当の始まり。
情報も、人も、心も――繋がる時代が来るのよ」
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今日の学び
・本当に価値ある投資は、“人”への信頼から始まる。
カナンの登場で、物語は次のステージへ。
理想を共有する仲間が増えた今、
リゼリアたちは“共有通信網”という壮大な夢へと動き出します。
次回、第30話「エルフ、塔を建てる」。
ぜひお楽しみに✨




