第2話 魔法より怖い、暴落という名の洗礼
投資を始めるには、まず“口座”が必要!?
リゼリアは冒険者ギルドとは別の、ちょっと怪しい(?)建物に足を運びます。
魔法が飛び交う異世界でも、口座開設は慎重に!
今回は「証券口座とは何か」「投資を始めるために必要なこと」を、物語に絡めて描きます。
初めて株を買った翌朝。
リゼリアは朝食もそこそこに、魔導端末を起動して“株価チャート”を確認した。
「……ふふ、やっぱり上がってるわ。昨日より一・二パーセント増……。これが“投資の力”か」
エルフの魔法使いは、椅子の上で足をばたつかせながらほほ笑んだ。
このままいけば十年で倍、百年で国家予算レベルも夢じゃない。千年生きるエルフにとって、時間こそが最大の武器だ。
(人間には真似できない……長期戦は私の得意分野)
そんな自信とともに、リゼリアの“資産形成の旅”は始まった。
――しかし、その夢はあっさりと崩れ去る。
数日後、魔導証券端末には真っ赤な文字が踊っていた。
【アクアフロー社 −17.4%】
【浄水魔導炉、爆発事故】
【王都で飲料水供給の混乱】
【株主による集団訴訟の可能性】
「は……? ちょ、ちょっと待って……何これ……?」
画面を見たリゼリアは、目を疑った。
数日前に“安定インフラ株”として購入した〈アクアフロー社〉の株価が、まるで火球魔法を浴びたかのように急落していた。
「なにが“安定”よ……! 本に書いてあったのにっ……!」
リゼリアは頭を抱えた。予測不能な“爆発事故”というニュースにより、市場はパニック状態。株価は連日下落し続けている。
魔法の才能はあっても、経済は初めてだった。
こんな“暴落”が、こんなに簡単に起こるなんて――。
「……大丈夫。慌てない、慌てない。これは一時的な下落。長期投資は、感情との戦い……」
必死に自分に言い聞かせながら、リゼリアは古書を開いた。ページの端には、こう書かれていた。
『市場は感情で動き、資産は忍耐で増える。パニック売りは最大の敵なり』
――伝説の商人・ロズベルドの遺稿より
「そうよ……パニック売りこそ、初心者の最大の敗因。私は、愚か者にはならない」
彼女は損失を確定させる“売却ボタン”に手を伸ばさず、じっと耐えることを選んだ。
――だが、同じ失敗は繰り返さない。
「リスクを減らすには、分けて投資すること。“分散”が鍵ね……」
リゼリアは、新たな銘柄を吟味する。
一つ目は、王国最大の治癒薬メーカー〈ヒールジェン社〉。
二つ目は、地方輸送網を管理する〈エルガ交通〉。
三つ目は、魔法石鉱山を保有する中堅企業〈ストーンブレス鉱業〉。
「社会インフラは一社に頼るものじゃない。“もしも”は、いつも起こる。私は、それを学んだのよ」
まるで魔法陣を描くように、端末に指を走らせる。
投資は、戦いだ。だが剣も魔法もいらない。必要なのは、知識と冷静さ、そして忍耐。
魔王を倒したエルフは今、**“経済という名の戦場”**に立っていた。
そして数十年後、リゼリアはこのとき“損切りをしなかった”ことによって、莫大なリターンを得ることになる。
だが同時に、それができたのは――“千年生きるエルフ”という特性ゆえだと、彼女は後に知る。
口座開設──それは投資家としての第一歩。
異世界では「身分証」や「属性証明書」なんてものが登場しますが、現代の口座開設も意外と似てるかも?
次回は“分散投資”について、リゼリアが勇者アインに語ります!
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