第1話 そして、エルフは証券口座を開いた
勇者パーティーの一員として魔王を倒した最強エルフ、リゼリア。
しかし、討伐後に待っていたのは──収入ゼロの現実!?
魔法も剣も通じない“お金の世界”に、彼女はどう立ち向かうのか。
今回は、物語の導入と、投資を始めるきっかけの話です!
魔王が討たれたその日、世界は歓喜に沸いた。
王国は盛大な祝宴を開き、勇者たちは英雄として称えられた。人々は口々にこう言った。
――これで平和が戻る、と。
だが、エルフの魔法使い・リゼリアは、祝杯のワインを口にしながら黙っていた。正確に言えば、眉間にシワを寄せながら、冒険者ギルドの報酬明細を見つめていたのだ。
「……少なっ」
魔王の首を取ってこの金額?
しかも、明細の端には“今後、冒険者ギルドは段階的に解散”と書かれていた。
(やっぱり……予想してた通り)
彼女は勇者パーティーの頭脳として数々の魔導戦略を考案し、魔王討伐にも貢献してきた。だがその裏で、リゼリアは密かに考えていた。
(この世界で長く生きるには、魔法だけじゃダメ……)
エルフは千年生きる。人間たちの“終わった平和”は、リゼリアにとっては“これからどう生きていくか”の始まりに過ぎなかった。
数日後、彼女は王都の裏通りにある古書店を訪れていた。
「……あった。“金貨を生む資本論(改訂版)”。」
この世界ではごく一部の貴族や商人が、“証券”という不思議な紙を売り買いして財を築いているという。リゼリアは以前から、その存在に興味を持っていた。
「株……国家や商会に出資し、利益の一部を受け取る仕組み……長期で資産を増やす……ふむ」
魔法書を読み漁ってきた彼女にとって、金融の知識などただの応用にすぎない。火球をぶちかますよりよほど安全で、平和的に世界を変えられる気がした。
その夜、リゼリアは自作の“魔導証券端末”で証券口座を開設する。
「名義は……リゼリア・ウィンドブレード。職業は……“無職”か。ふふ、これはまずいわね」
最初に買ったのは、王国最大の魔法水供給企業〈アクアフロー社〉の株だった。
「水はインフラ、人口は増えてる、需要は安定……うん、最初の投資には悪くない」
このとき、まだリゼリアは知らなかった。
――数十年後、“エルフ投資家”として異世界経済を動かす存在になることを。
――そして、かつての仲間たちが「助けてくれ」と頭を下げに来る日が来ることを。
お読みいただきありがとうございました!
魔王を倒しても食べていけない……ファンタジーあるある、かもしれません(笑)
次回から、エルフによる“異世界投資術”が本格始動します。
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それでは、また第2話でお会いしましょう!