プロローグ「魔王は倒した。では、次に何を得る?」
魔王討伐後、すべてが終わったはずだった――。
しかし、長命のエルフ・リゼリアにとって、それは「始まり」にすぎなかった。
仲間たちは祝宴の中にいたが、彼女は静かに“次の戦場”を見据える。
本作の導入となるプロローグです。
勇者パーティーのその後と、投資に目覚めるまでの始まりをお楽しみください。
夜の焚き火が、静かに揺れていた。
祝宴の喧騒はすでに遠ざかり、残された薪の香りだけが、風に混じって残っている。
リゼリアは、その焚き火のそばでひとり、空を仰いでいた。
千年生きるといわれるエルフ族。
その中でも彼女は特に長命で、特に強く、そして特に――孤独だった。
仲間たちは、それぞれの「終わり」に向かって生きている。
人間の勇者アインも、獣人の重戦士ガルドも、聖女ルミナも。
彼らの人生は、この「魔王討伐」を一つの到達点としているようだった。
だが、自分はどうだ?
終わるどころか、まだ――始まってすらいないのではないか。
「リゼリア〜、お前も飲めって〜!」
離れた場所から、アインの陽気な声が届く。
酔っているのだろう。あれだけ高潔な聖剣の使い手が、さっきから地面に寝転んでは笑っている。
その横で、ガルドが肉を頬張りながら叫んでいた。
「報酬、思ったより少なかったな! 魔王倒したんだぜ!? 家、一軒も買えねえよ!」
それに聖女ルミナが、困ったように笑う。
「これからは、平和な時代だから……冒険者ギルドも、縮小していくそうよ」
それは、すでに知っていた。
魔王が滅び、世界が平和になれば、冒険者の存在意義は消えていく。
大規模な討伐依頼も、国家からの危険手当も、魔族の討伐報酬も……もう、すべて終わり。
まるで、仕事をすべて終えた剣士が、剣を手放すように。
自分たちは“用済み”なのだ。
(では、私は――これから、何で生きる?)
手元の杖を握りしめる。
誰よりも強く、誰よりも長く生きるこの身体で、これから何を得て、何を残す?
ふと、あることを思い出した。
旅の途中で寄った、とある貴族の館。
屋敷には大量の“証文”や“株券”というものがあり、それらが金や土地を生み出すと説明された。
貴族は言っていた。
『お金を稼ぐには、戦うだけじゃない。時間を味方につけることだよ』
(……時間)
私には、ある。
誰よりも長い“時間”が。
そして、誰にも負けない“魔法”がある。
もし、これらを……金貨や銀貨、国債や株式に変えることができたなら。
剣で救えぬものを、お金で救える未来があるのなら。
やがて消えていく仲間たち。
衰えていく街の人々。
平和の代わりに、疲弊していく“経済”。
(ならば私は――戦う。今度は、別の戦場で)
静かに立ち上がる。
夜空には、星がいくつもまたたいていた。
あれは、かつて導きを示した星。
だが今、私が目指すのは“利回り”と“分散”という名の星々。
「株……始めてみようかな」
その呟きは、焚き火の音にかき消された。
だが確かに、リゼリアの中で何かが始まっていた。
ご覧いただきありがとうございました!
勇者たちの戦いが終わっても、人生は続いていく。
その後に何をするのか? どう生きるのか? という問いは、現実でも通じるテーマかもしれません。
次回からは、本格的に「投資の世界」へ足を踏み入れていくリゼリアの物語が始まります。
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