表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦勝国の敗将  作者: 畸人0.1号
第二章
21/26

「第二十話」《『未来』の兵士》

 チリンチリンと鈴の音が店内に吸い込まれた。店内の空気が少し揺れる。


「久しぶりだな。ダリス」

「カイ!ほんと久しぶりだなぁ!」


 店の中は意外と混んでいた。入口近くの席は埋まり、奥のテーブルにも若い兵士らしき男たちが肩を寄せあっている。

 キョロキョロしていると、若い女性が軽く会釈をし、「こちらです」と空いた席を示してくれた。


「カイさん。ここは?」

「店主が同期で、よくテオとも食事をしに来ていた」


 テオの名前を口にした瞬間、彼の目がわずかに揺れた。店内の照明がその揺れを拾い、反応は隠しようもない。


「決まったか?」


 ダリスが注文を聞きに来た。


「俺はいつもので、飲み物は度数の小さい酒で頼む」

「了解。そっちの二人も酒にするか?」

「おい、未成年に飲酒を勧めるな」


 軽口のやり取りの最中、ミロがそっと顔を上げる。


「あの、父さ……テオさんと同じものをお願いできますか?」


 その言葉が落ちた瞬間、店の喧騒が遠のいた気がした。ミロの声は震えてはいない。その静けさが逆に胸へ響いてくる。


「あぁ、"お前の父さん"と同じものな」

「じゃあ俺もそれで!」

「あいよ。ちょっと待ってろ」


 ダリスは注文をメモすることなく、慣れた足取りで厨房へ戻った。


 ほどなくして皿が運ばれてくる。


「お待ちどうさん。オムライスと、ステーキ二つな」


 皿が置かれた瞬間、鉄板の熱がまだ残っており湯気が静かに立ち上る。


「これ、テオさんが食ってたの?」

「あぁ、あいつは大食いだったからな」


 信じられないと、ルカの口がぽかんと開いたまま閉じない。

 それに隠れてミロは、テオの名が会話に出るたび僅かに呼吸のリズムを崩す。


 テオの見た目はとても細い。ほかの店に行き、オムライスとステーキを頼めば、ステーキは必ずカイの方に置かれる。店員が見えなくなってから交換していたのもいい思い出だ。


「それと、飲み物は、オレンジジュース二つと、アルデンモルトな」

「度数の小さいものをって言ったはずだが?」

「いつもの、だろ?」


 たしかに、ここへ来れば毎回、アルデンモルトを頼んでいた。ダリスは当然のような顔だ。


「そっち二人は成人したら飲ませてやるよ。テオのいつもの、をな」


 そう言ってから、ダリスはカイの隣にドカッと腰を下ろした。


「いいのか?ここにいて」

「俺の愛する妻と娘が話して来いってな!」

「そうか」


 また、惚気が始まりそうだったので、カイは話題を切り替えた。


「客が増えたな。しかも若いヤツら」

「まぁな……店としては嬉しいんだが複雑だな」


 横目に客たちを見ると、制服姿の若い兵士がちらほら。

 カイの視線を追って、ルカが首を傾げた。


「待って、店主も元兵士なの?」

「足が吹き飛んで辞めたがな!」


 豪快な笑い声に、ルカが目を丸くする。


「後悔はしてない?」

「後悔かー……無いっていえば嘘にはなるな。だが、無くなっちまったもんは戻ってこねぇ。だから、前向いて生きるしかねぇんだよ」

「なんで兵士になったの?」

「なんでって……女の子にモテるためだよ。お陰で最愛の妻と出会えた! 願ったり叶ったりだ!」


 ルカは、「変なの」と呟き、ステーキへかぶりついた。


「じゃあ、戦争に行ったことは正解だと思いますか?」

「正解って……どうだよ。カイ」

「俺に振るのか」

「お前しかいないだろ」


 カイは大きな溜息をつき、アルデンモルトを一口飲んだ。舌の奥が少しだけ熱くなる。


「選択肢なんてない、つまり正解や不正解も存在しない」

「だな……入っちまえばみんな平等に、戦争に行くもんだしな」

「じゃあ、入隊したことに後悔はないの?」

「まぁ、今こうしてお前らと飯を食ってるのも入隊したおかげだからな。後悔はない」

「俺もだなぁ〜なんたって最愛の妻に会えたからな!!」

「分かったから」


 肉を切る音、客の笑い声――

 それらが店内を満たしていた。

 その中で一つ。


「俺、兵士になるよ」


 ルカが静かに呟いた声を聴き逃しはしなかった。

 スプーンを持つカイの手が止まる。

 カイの胸の奥で歯車の錆が剥がれた。


「なんでそう思った」


 カイの声が自然と低くなる。ミロもルカを見つめている。ルカは少しだけ背筋を伸ばした。


「"人のため"に働きたいからかな。俺が行けば孤児院のみんなを守れるんでしょ?」


 言葉は真っ直ぐだった。だが真っ直ぐすぎて脆い。カイは、即座に肯定も否定も出来なかった。


「……死ぬ可能性もある。それでも兵士になると言うのか?」

「はい。カイさん」


 その返事にはしっかりとした芯があった。そこまでの覚悟を持つルカを否定する術はない。


「分かった。死なないように稽古をつけてやる。それに合格したら入隊試験を受けてもいい」

「ほんと?!ありがとう!カイさん」


 ルカの声だけが店のざわめきを突き破り、真っ直ぐに響いた。

 その笑顔が、あまりにも美しくカイの胸はまた少しだけ痛みを持った。

 そして、止まっていた歯車がゆっくりと回り出した。

続きも読みたいと思っていただけましたら、ぜひ、評価、感想等々よろしくお願い致します!

励みになります!



次回の更新は


2025年12月05日(金)18時00分


です。


またのご来場お待ちしております


畸人0.1号

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ