「第十九話」《『遅春』の出会い》
「じゃあ、出かけるからな。夜には帰ってくる」
「任せてかいっち!」
「あぁ。リア……さん、ヴィンも含めてお願いします」
「はい。お任せ下さい」
リアは俺の部下だぞ、と叫んでいるヴィンを背に、ミロとルカを連れて外へ出る。
「さてと、とりあえず好きな服をいくつか見繕え」
街の商店街から少し離れた静かな場所。有名店も個人の古着屋も両脇にずらりと立ち並ぶ通り。
三人で話し合い、片っ端から見ていくことになった。
「ごめんください――」
「はい! 英雄カイ様! お服を仕立てさせていただきます!」
目を輝かせ、食い気味に突撃してきたのは、店のオーナーらしい女性。既にいくつかコーディネートの準備をしている様子だが――
「いや、今日はこの二人の服を見繕って貰えないかと」
「かしこまりました! お二方ですね! ふんふん、こちらも美少年! 腕がなりますよぉ〜」
要望を伝える間もなく、ルカとミロは連れていかれた。驚いた表情のまま、引っ張られていく二人の姿に、思わずクスリと笑みが漏れる。
「カイ様、カイ様のお洋服はどうなさいますか?」
別の店員が話しかけてきた。
「いや、俺は大丈夫だ」
テオのお下がりばかりだが、それが心地よい。不思議と落ち着く。テオの部屋に置いてあった100着超えの服はまだ全て着れていない。
「すみません。あの人、顔が良い方を見つけるとテンションが上がってしまうんです」
「あ、いや。その……良いと思います」
更衣室の外にいたルカが呟いた。
「カイさんに春が訪れてる……」
カイの地獄耳はその音を拾っていた。だが、カイは軽く聞き流した。だが、心の奥でほんのりと温かい感情が広がるのを感じていた。
「今はお独りで?」
「恥ずかしながらそういう方ができたことはなく」
カイは自分が何の話しをしているのか理解していなかったが、流れに身を任せることにした。
「カイさん?見てよ。ミロ、すっごいイケメン」
ルカの声に促され、更衣室から出てきたミロを見る。本人はぎごちない動きをしているが、それでもとても似合っていた。
「よし。それは買う。ミロ、お前がなんと言おうが買う。帰りにそれを着ろ」
「カイさん?値段を確認してください」
「金はいくらでもある。気にするな」
後でミロが金額を聞いて倒れたのはまた別の話だ。
「ルカは、気に入ったのあったか?」
「ん〜オレ、もっとダル着みたいなやつがいいな」
ルカがそう呟けば、テンションが上がっていたオーナーが店を飛び出した。
「お待たせ致しました! こちらはどうですか?」
手に持ってきた服を見ると、ルカの表情がパッと変わる。
「カイさん! オレ、これ欲しい!」
「分かった。ついでに、二人にスーツを選んでくれ」
「承知しました!」
二人が着替えて出てくると、店内にいた女性客から歓声が上がる。
「なんでも似合うな、お前ら」
「へへへ」
会計を済ませ、店を出る。通りに出れば、周囲の視線が二人に注がれているのが分かった。
「あの!」
先程の店で話しかけてくれた店員がカイを後ろから呼び止める。
「どこに行けばあなたに会えますか?」
ミロとルカが示し合わせたようにカイに背を向けて歩き出す。
「この街の外れの孤児院に、院長をしています。またお会いできれば光栄です」
深々と頭を下げ、前を歩く二人を追いかけるカイ。
「ほら、カイさんも服を買えばよかったのに」
「遅い春、ですかね〜」
「おい――……ミロ、テオに会ってくか?」
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「リサ大佐は現在いらっしゃいません」
受付の兵士にそう告げられる。許可証は持っているため、残りは知り合いの兵士の引率――
「そうだな……ハルを呼んでくれ」
「カイ中尉……じゃなかったすね。お久しぶりですカイさん」
「久しぶりだな。少尉になったんだったか?」
「そおっすね。まぁ、カイさんが辞めたんで繰り上げって感じっすけど――え? 隠し子ですか?」
カイの後ろにいた、ミロとルカを見て、そう訊ねる。
「なわけないだろう。こっちはミロ、テオの息子だ。こっちはルカ。孤児院の子供だ。いいか? 俺に隠し子はいない」
「冗談じゃないっすか」
どこまでが冗談で、どこから本気なのか、カイには分からなかった。
「この前も来てたっすよね」
カイは小さく頷く。
まだ、手を合わせるミロを見ながら、ハルは話を続けた。
「自分、テオ中尉に会ったことないんすよ。」
「そうだな」
「なんで立派な人ほど亡くなってくんすかね」
「そうだな」
同じ返事を二度してしまった。
「カイさん、ちゃんと聞いてないっすね」
「聞いてる」
「いや、聞いてないっす!」
「聞いてると言っているだろ」
少し強めの口調に、ハルは笑顔になった。
「やっぱりカイ中尉はかっこいいっすね」
「中尉ではない」
「いいっす。自分の中ではずっとカイ中尉はカイ中尉なんで」
好きにしろと、目を回せば、また笑顔が帰ってきた。
「ねぇ、カイさん。ここにいる人たちは国を守るために散った人たち?」
「そうだな」
「ふぅん。お兄さんも国のために戦うの?」
ルカが、ハルにそう問いかける。ハルは眉を顰め、右上で考え混んでから口を開いた。
「"国のため"って言うよりは、"人のため"って感じすかね。ここに産まれて育ったから、この国の人のために働いてるっす。でも、ザルガスに生まれてたらザルガスの人々のために働いてたと思うんすよ。なんで、"人のため"が正解すかね」
そう言い終えると、ハルは小声で「大声で言っちゃダメなんすけどね」と付け加えた。
「ははは……」
いつだっただろうか、テオが同じようなことを口にしていた。
人のために――
それが口癖だった。
「カイ中尉? どうかしました?」
「いや……お前にしてはまともなことを言うな、と」
「あー! バカにしてるっすね!!」
「してないさ」
バカにするわけない。
あいつの、テオの考えを否定するなんて、するはずない。
テオのおかげで今、俺はこうして立っていられるのに。
「さてと、帰るか」
ハルに「今度ご飯奢ってください」と言われながら、軍の敷地を出た。
「晩御飯はどうするの?」
「そうだな……ここまで来たし、ダリスのところに行くか」
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2025年11月28日(金)18時00分
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畸人0.1号




