「第十八話」《戻れぬ『人生』》
「おい、ヴィン。ちょっと」
院長室の窓から、外で子どもたち相手に全力で遊んでいたヴィンが、ぴょこんと振り向いた。
「かいっち! 一緒に遊ぶのか?」
「違う。ピクニックの件だが――」
ピクニックという単語が出た瞬間、ヴィンは弾かれたように窓の下へ駆け寄ってきた。
「で? どこいく?」
「……王城の裏の丘にしようかと思っている」
「王城?」
ヴィンは眉間に皺を寄せて腕を組んだ。何かを考え込んでいる。
「あー……リア呼んでもいいか?」
「呼ばずとも、おりますよ。ヴィン様」
澄んだ声が二人の間に割り込んだ。
いつからいたのか。リアはヴィンの背後に影のように佇んでいた。
「ヴィン様。カイ様にはどこまでお話するので?」
「おい、なんの話しだ」
問いかけると、ヴィンとリアは一瞬だけ視線を交わした。観念したようにヴィンが深く息を吐く。
「今回の遠出、まぁピクニックでウチと連絡を取ろうと思ってたんだよ。これじゃ自分で外に出るしかないか……」
「……ヴィン」
カイの声が自然と低くなる。
空気がわずかに緊張した。
胸の奥に、一つの可能性が浮かぶ。
「"この計画"には、そっちの上層部も関わっているのか?」
ヴィンは背筋を伸ばした。
「……あぁ」
「ヴィン様!!」
「リア」
リアが強く声を上げるが、ヴィンが手で制した。
「国王陛下も知ってる」
「ヴィン様! あれほど陛下に"漏らすな"と言われていたのに……!!」
「隠してちゃ何も始まらないだろう」
その一言で、カイの中の点が線になって繋がっていく。
――なぜ、ヴィンとリアがこうも簡単に国内に入れたのか。
――なぜ、いきなり、ザルガス人を匿えば罪になるというお触れが出ようとしているのか。
――なぜ、国境の厳重化が唐突にはじまったのか。
この国の上層部はザルガスの動き、すべてを把握しているのだ。
既にカイにも監視が付いているかもしれない。
先手を打つことで、勝利を挙げてきた彼らが、今回も同じように"勝とう"としている。
「カイ。この計画から降りるか?」
静かに問われる。
それはカイの未来を決める問いだった。
ヴィンとリアを国に突き出せば、すべてが終わる。
そして、この計画があるということを上層部へ申告すれば、「さすが英雄」と称賛されるだろう。
安全な場所で静かに暮らす選択肢も、手を伸ばせば届く。
だが――
その未来の先にあるのは、子どもたちの死だ。
選択肢など、とうに無いのだ。
「降りるわけがないだろう」
声は震えていなかった。
「この計画から降りれば、戦争で多くの若者が死ぬ。結果は目に見えている」
国の"勝利"よりも大切なものが幾千、幾万と消えてしまう。
院長室へ差し込む午後の光が、カイの表情を淡く照らした。
カイはゆっくりと視線を上げ、ヴィンとリアを見据えた。
「どんなことになろうが、俺は俺の命を、人生を懸けて子供たちを守る。それだけだ」
胸の底から湧き上がる確信が、言葉を押し出した。
「その方法のひとつに、戦争を止めるというのがあっただけだ。……だから、俺は降りない。お前たちに協力をする。たとえ俺が捨て駒でもな」
ヴィンの瞳が揺れた。リアの顔にも一瞬、驚きが走る。
「だから――隠し事は無しで頼む」
「もちろんだ」
ヴィンは短く、しかし真剣に頷いた。
「あぁ、それと。お前たちの正体は絶対に子供たちに言うな。あの子たちは何も知らない。巻き込むなよ」
「分かってる。俺だって、子供たちを巻き込むつもりは無い」
窓の外では、無邪気な笑い声が響いていた。その声が、今だけは痛いほど胸に刺さる。
――守る。そのために戦争を止める。
静かで重い決意が、場を支配していた。
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二週間ぶりでございます。沖縄に修学旅行で行ってまいりました!
いやーとにかく海が綺麗でしたね……
鍾乳洞を見たんですが、いつか鍾乳洞をお話の中で使ってみたいですね
ということで、再開してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします!!
次回の更新は
2025年11月21日(金)18時00分
です。
またのご来場お待ちしております
畸人0.1号




