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戦勝国の敗将  作者: 畸人0.1号
第二章
17/26

「第十六話」《遠出の『予定』》

「かいっち!!」


 扉が乱暴に開いた。院長室の静けさが一瞬で破られる。入ってきたのはヴィン。いつも通り、場の空気を読む気などさらさらない。


「なんの用だ……ヴィン」


 カイは眉をひそめ、額を抑える。目の前にはマリンダがいるのだ。


「おや、新しい子かい?」


 マリンダが微笑む。その穏やかさに、ヴィンの勢いが一瞬、削がれる。


「えっと……ご婦人、お名前は?」


 いつもの軽口がどこかぎごちない。

 ヴィンの視線がカイに向く。その瞳にはわずかな焦りがある。

 ――助けを求めているようだ。だが、知ったこっちゃない。


「あたしはマリンダ。ここの元院長だよ。君は?」

「ヴィンと申します。マリンダ様。」


 ヴィンは姿勢を正し、マリンダの手を取って甲に口づけを落とした。


「へぇ〜……よくカイくんが受け入れたねぇ」


 マリンダが目を細める。

 その声色には、からかいと興味が混ざっていた。


「『来るもの拒まず去るものにも愛情を』ですから。マリンダさんがおっしゃったじゃないですか」


 そう言うと、マリンダは満足そうに頷いた。


「そうだね。たとえ――ザルガスの子であってもね」


 ザルガス――


 その名が出た瞬間、空気が僅かに冷えた。

 ヴィンの心臓の音まで聞こえてきそうだ。


「なぜ、そう思うのでしょうか?」


 ヴィンの顔から、笑顔が消え、ひきつり、声は震えている。


「年の功だよ」


 マリンダは、悪い笑みを浮かべる。


「随分こっち側(アルディア人)になろうとしてるみたいだけど、まだまだだね」


 くすくすと笑う声が室内に響く。

 敵意はない。だが、見透かされているような鋭さ。その笑みの奥に潜む鋭さに、空気までが引き締まるようだ。

 カイも何故か身震いした。


「それじゃあ、お暇しようかね」


 マリンダはゆっくりと立ち上がる。


「卒業式の件、考えておくよ」

「はい。ありがとうございます。また」


 カイが頭を下げると、マリンダは手をひらひらと振って出ていった。


「はぁ……怖いなあの人」

「一目で見抜かれたからか?」


 ヴィンはこくりと頷いた。


「俺たちはさ、国から戦争を止めろ、って言われてるから、ある程度訓練は受けてるわけ。それを、一瞬でって……あの人も元兵士かなんか?」

「いや……そういう話は聞いたことがないな」


テオなら何か知っていたかもしれないが。


「というか卒業式って、そこまでおっきい子いなくない?」

こっち(アルディア)は十六で卒業だからな。ちょうどルカとミロが十六だ」

「へぇ〜。こっち(ザルガス)は十九だったな〜」


 ヴィンはソファにどかっと腰を下ろす。

 軽口に戻ったのは、緊張が解けた証拠だ。


「そんな話をしに来たわけじゃないだろ?」


 カイが問う。


「そうだ! かいっち。みんなでピクニック行こ!」


 突拍子もない提案。何か考えがあってからの発言だとは思いたい。


 ヴィンの顔を見れば、とんでもない笑顔がそこにある。


 あぁ、絶対思いつきそのままだ。


「お前が行きたいだけだろ」

「えー……だめ?」


 元々、外には連れていこうと思っていた。それが、流れに流れ今まで連れていけていなかった。


「分かった。予定を組んで準備をしよう。」


「よっしゃー!」


 ヴィンが跳ねるように立ち上がった。院長室の空気が、一気に明るさを帯びた。

 カイの肩から力が抜け、思わず口元を緩めた。


 ヴィンがいると、この場所が少しだけ生きているように感じられる。本当に不思議な男だ。

続きも読みたいと思っていただけましたら、ぜひ、評価、感想等々よろしくお願い致します!

励みになります!



次回の更新は


2025年10月31日(金)18時00分


です。


またのご来場お待ちしております


畸人0.1号

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