「第十五話」《『英雄』再び》
「お茶を、三つお持ちしました」
ルカがお茶を入れに行ったはずだが、ミロが持ってきた。
出来れば合わせたくなかった――と、カイは思う。自分の父親を殺した国民を、誰が見たいと思うのか。
「はじめまして、私はリアと申します。お名前を伺っても?」
リアが柔らかく声をかける。
ミロは戸惑いながら、挨拶を返す。
「えっと、はじめまして。僕はミロと言います。よろしくお願いします。」
憎しみを抱えていていいはずの、ミロが穏やかに微笑んでいる。
感情の起伏が小さい子ではない。カイが悪く言われれば飛び出していくような子だ。
カイはバツが悪くなってミロから目線を外した。
「それで、結局なんの用があってここへ?」
ミロが部屋を出ていったのを確認し、沈黙を破った。
先程のリアの話で理解した。二人は、カイを探してここにたどり着いたのだと。リアがヴィンを小突く。ヴィンは小さくため息を吐き、頭をかいた。
「単刀直入に言うと、俺たちと――戦争を止めねぇか? っていう話だね」
戦争――
その言葉に、空気が張り詰めた。
「かいっちも知ってるだろ? また、この国はまた戦争をする気だ。相手はウチではないが――ウチの同盟国になる見込みなんだ」
ヴィンの声は冗談というには真剣すぎた。
リアが言葉を継ぐ。
「現在、我々ザルガスには支援物資も、資金も、軍もありません。このままでは同盟を切られてしまう。さすれば孤立するのは目に見えております」
カイは黙ったまま、腕を組む。
頭の中に浮かぶのは、軍内でみた若い兵士たちの訓練。
あの時と同じ匂いがする――戦争の足音だ。
カイは一度、深く息を吸った。
言葉を選ぶように、低く問いかける。
「……つまり、お前ら、ザルガスのために俺に戦争を止めろと言っているのか?」
「……この国の徴兵基準は十六歳から、でしたよね」
リアの声が落ちる。
十六――
ルカとミロが近い。
銃声の中に消えていく光景が頭をよぎる。
「なるほど」
吐き出すように言ったその声には、怒りが混じっていた。
ゆっくりと立ち上がる。椅子が軋む音が、部屋に響いた。
「子供たちを、人質にするのか」
その一言で空気が凍る。
誰も微動だにしない。
拳が震える。
それでも怒鳴ることはなかった。
代わりに、抑えきれぬ怒りが低く滲んだ。
「なあ、かいっち。俺たちの都合で一体どれほどの、未来と命が潰えたと思っている?」
「数えきれないよね」
カイは何も発せずに、ただ拳の握る力を強くする。
「俺が協力すれば、戦争は起こらないのか」
「……被害は最小限にできる、予定だ。こちらも無責任なことは言えないからね」
ヴィンが口を閉じ、カイを見つめる。
その瞳に嘘はなかった。
カイは目を伏せ、深く息を吐いた。
もし、本当に戦争が始まるのであれば、ミロ、ルカ、この孤児院に限らず多くの子供たちが強制徴兵されることになる。そこには、ダリスの娘や、宿屋のエルも含まれるだろう。
考えても、答えは一つしかない。
戦争を止める――
それが唯一、子供たちを守る方法だ。
たとえ、テオを殺した相手と手を組むことになっても――。
「俺は、『英雄』なんてたいそうなものじゃない。だが、子供達を守りたい」
その声は静かだった。
だが、その瞳の奥に、確かな炎が宿っていた。
命を賭ける覚悟を、誰よりも知る男の眼。
『英雄』と呼ぶのにふさわしい瞳。
「了解した。協力しよう」
その声に迷いはなかった。
外の風が、静かにカーテンを揺らしていた。
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2025年10月24日(金)18時00分
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畸人0.1号




