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戦勝国の敗将  作者: 畸人0.1号
第二章
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「第十五話」《『英雄』再び》

「お茶を、三つお持ちしました」


ルカがお茶を入れに行ったはずだが、ミロが持ってきた。

出来れば合わせたくなかった――と、カイは思う。自分の父親を殺した国民を、誰が見たいと思うのか。


「はじめまして、私はリアと申します。お名前を伺っても?」


リアが柔らかく声をかける。

ミロは戸惑いながら、挨拶を返す。


「えっと、はじめまして。僕はミロと言います。よろしくお願いします。」


憎しみを抱えていていいはずの、ミロが穏やかに微笑んでいる。

感情の起伏が小さい子ではない。カイが悪く言われれば飛び出していくような子だ。

カイはバツが悪くなってミロから目線を外した。


「それで、結局なんの用があってここへ?」


ミロが部屋を出ていったのを確認し、沈黙を破った。

先程のリアの話で理解した。二人は、カイを探してここにたどり着いたのだと。リアがヴィンを小突く。ヴィンは小さくため息を吐き、頭をかいた。


「単刀直入に言うと、俺たちと――戦争を止めねぇか? っていう話だね」



戦争――


その言葉に、空気が張り詰めた。


「かいっちも知ってるだろ? また、この国はまた戦争をする気だ。相手はウチではないが――ウチの同盟国になる見込みなんだ」


ヴィンの声は冗談というには真剣すぎた。

リアが言葉を継ぐ。


「現在、我々ザルガスには支援物資も、資金も、軍もありません。このままでは同盟を切られてしまう。さすれば孤立するのは目に見えております」


カイは黙ったまま、腕を組む。

頭の中に浮かぶのは、軍内でみた若い兵士たちの訓練。


あの時と同じ匂いがする――戦争の足音だ。


カイは一度、深く息を吸った。

言葉を選ぶように、低く問いかける。


「……つまり、お前ら、ザルガスのために俺に戦争を止めろと言っているのか?」

「……この国の徴兵基準は十六歳から、でしたよね」


リアの声が落ちる。

十六――

ルカとミロが近い。

銃声の中に消えていく光景が頭をよぎる。


「なるほど」


吐き出すように言ったその声には、怒りが混じっていた。

ゆっくりと立ち上がる。椅子が軋む音が、部屋に響いた。


「子供たちを、人質にするのか」


その一言で空気が凍る。

誰も微動だにしない。

拳が震える。

それでも怒鳴ることはなかった。

代わりに、抑えきれぬ怒りが低く滲んだ。


「なあ、かいっち。俺たちの都合で一体どれほどの、未来と命が潰えたと思っている?」


「数えきれないよね」


カイは何も発せずに、ただ拳の握る力を強くする。


「俺が協力すれば、戦争は起こらないのか」

「……被害は最小限にできる、予定だ。こちらも無責任なことは言えないからね」


ヴィンが口を閉じ、カイを見つめる。

その瞳に嘘はなかった。

カイは目を伏せ、深く息を吐いた。

もし、本当に戦争が始まるのであれば、ミロ、ルカ、この孤児院に限らず多くの子供たちが強制徴兵されることになる。そこには、ダリスの娘や、宿屋のエルも含まれるだろう。


考えても、答えは一つしかない。


戦争を止める――


それが唯一、子供たちを守る方法だ。

たとえ、テオを殺した相手と手を組むことになっても――。


「俺は、『英雄』なんてたいそうなものじゃない。だが、子供達を守りたい」


その声は静かだった。

だが、その瞳の奥に、確かな炎が宿っていた。

命を賭ける覚悟を、誰よりも知る男の眼。


『英雄』と呼ぶのにふさわしい瞳。


「了解した。協力しよう」


その声に迷いはなかった。

外の風が、静かにカーテンを揺らしていた。

続きも読みたいと思っていただけましたら、ぜひ、評価、感想等々よろしくお願い致します!

励みになります!



次回の更新は


2025年10月24日(金)18時00分


です。


またのご来場お待ちしております


畸人0.1号

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