表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴルドベルグ変奏曲  作者: ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
8/10

Variation VII

午後の公園は、やわらかな風が吹いていた。

文化祭まであと二週間。


共演の練習も、いよいよ本格的になってきた。


だけど今日は、音楽室ではなく

――外に出ることにした。


「……たまには、外で曲のイメージ膨らませるのも、悪くないかなって。べ、別にデートとかじゃないけど……」

玲音れいんは、少し照れたように言った。


その声は、いつもより少しだけ柔らかい。


「うん。俺もちょっと気分転換したかったし、自然の音って、意外とヒントになるんだよね」


「……きたいしてるからね」


池のほとり

――水面がきらきらと揺れる。


軽快で、少し跳ねるような風のリズム。

でも、どこか不安定で、揺れる。


俺たちは、ベンチに腰かけて、楽譜を広げた。

心の中で、ピアノとヴァイオリンが軽やかに絡み合う。


まるで、心がステップを踏むように。


でも――


途中で、玲音れいんが視線を落とした。

「……ご、ごめん。ちょっと……集中できないかも」


「どうしたの?」


玲音れいんは、目の前の景色をぼんやりと見つめた。

「おじいちゃんのこと……最近、いろいろ思い出しちゃってて……」


宗一郎そういちろう先生のこと?」


「うん……小さいころは、すっごくやさしかった。でも、ある時から急にきびしくなって……『音楽は感情じゃない』って、なんども言われたの」


玲音れいんの声は、少し震えていた。


「でもさ、ひびきの音を聴いてると……なんか、心が動くの。おじいちゃんが否定してたものなのに……」


「……玲音れいんは、祖父の音楽をどう思ってる?」


「……わかんないよ。尊敬はしてる。でも、ぜんぶを信じきれるわけじゃない……」


俺は、そっとスマホを取り出して、変奏VIIの旋律を再生した。

玲音れいんは、少しだけ遅れて、目を閉じて聴き入った。


音が、揺れながら重なる。

まるで、心の不安定さをなぞるように。


「……ひびき


「うん?」


「私ね、ひびきといっしょに演奏してると……『音楽って、こういうものなんだ』って、思えるの」


その言葉に、俺の心が跳ねた。


「俺も、玲音れいんの音があると、迷わない気がする」


風が、静かに吹き抜ける。

それは、二人の心が少しずつ近づく、揺れるステップだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ