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ゴルドベルグ変奏曲  作者: ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
7/10

Variation VI(Canon at the Second)

その夜、俺は不思議な夢を見た。


白い部屋。

窓もない。時計もない。


ただ、中央に一台のピアノが置かれていた。

俺は、そこに座っていた。


鍵盤に指を置くと、自然に旋律が流れ出す。


変奏VI

――カノン・アット・ザ・セカンド。


2度のずれで模倣される旋律。

まるで、誰かの記憶をなぞるような音。


「……その音、懐かしい」

声がした。


振り返ると、そこに少女が立っていた。


白いワンピース。長い髪。

どこか現実離れした雰囲気。


「……君は?」


「『アリア。玲音れいんの心を揺らす旋律』。そう呼ばれてた気がする」


アリア。玲音れいんの心を揺らす旋律。

あの楽譜の冒頭に書かれていた旋律。


そして、俺が最初に弾いた音。


「君、俺の夢に……どうして?」


「わからない。でも、あなたの音が、私を呼んだの」


彼女は、ピアノの隣に座った。


そして、俺の手にそっと触れた。


「旋律を、思い出して」


「……思い出す?」


「あなたの中にある、忘れていた音。それが、私の記憶と繋がってる。だから、奏でて。もう一度」


俺は、鍵盤に指を置いた。

変奏VIの旋律が、静かに流れる。


その音に、彼女は目を閉じた。

まるで、遠い記憶を辿るように。


そして、彼女は言った。

「次に会うとき、もっと思い出してる。きっと」


その言葉とともに、夢は静かに消えていった。


目が覚めると、朝だった。


でも、心の奥に、彼女の声が残っていた。

「『アリア。玲音れいんの心を揺らす旋律』……」


俺は、楽譜を開いた。

変奏VIのページ。


そこには、前にはなかった「2つの音符」が、赤いインクで書き加えられていた。

まるで、夢の中で弾いた旋律が、現実に「模倣」されたように。


現実と夢が、2度ずれて重なる。

それは、俺の記憶と、彼女の存在が奏でる「カノン」だった。

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