表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴルドベルグ変奏曲  作者: ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
3/11

Variation II

文化祭の準備は、思った以上に騒がしい。

音楽科の生徒たちは、演奏会のリハーサルに、展示の構成に、衣装の打ち合わせにと、てんやわんや。


俺も、玲音れいんとの共演に向けて、変奏Iの練習を重ねていた。


そんなある日――


ひびきくん、ちょっといい?」

声をかけてきたのは、玲音れいんの親友、たちばなひよりだった。


声楽専攻。明るくて、ちょっとお姉さんっぽい雰囲気。

玲音れいんとは対照的に、感情表現が豊かで、恋バナが大好きなタイプ。


玲音れいんと、最近よく一緒にいるよね?」


「え、まあ……文化祭の共演があるから」


「ふーん。じゃあ、玲音れいんの『初恋』の話、聞いても平気?」


唐突すぎる。

俺は思わず、楽譜を落としかけた。


「え、初恋って……誰?」


「それはねー……」


ひよりは、いたずらっぽく笑って、俺の耳元にささやいた。

ひびきくん、だったんだよ」


……え?


頭が真っ白になった。

心臓が、変奏IIのリズムみたいに跳ねる。


「中学の頃、玲音れいんが言ってた。『ひびきのピアノが好き』って。演奏してるときの顔が、いちばん好きだって」


「……そ、そんなの……」


知らなかった。

いや、気づいてたのかもしれない。でも、見ないふりをしてた。


「今はどうか、わかんないけどね。最近、ちょっと距離あるし」


ひよりはそう言って、俺の楽譜を覗き込んだ。

「あれ? この変奏、ちょっと変じゃない?」


「え?」


彼女が指差したのは、変奏IIのリズムパターン。

三連符の中に、妙な『休符』が挟まれていた。


「これ、普通の譜面じゃないよね。……あ、これ、『日付』かも」


「日付?」


「うん。リズムを数字に置き換えると、『10・2・5』になる。10月25日?」


俺は、楽譜を見つめた。

確かに、三連符の配置が不自然で、数字に見えなくもない。


「その日、何かあった?」


「……わからない。でも、何かが隠されてる気がする」


変奏曲に仕込まれた「日付」。


それは、作曲家

――玲音れいんの祖父が残した、何かのメッセージかもしれない。


そして、玲音れいんの“初恋”という言葉が、俺の心に残った。


彼女のヴァイオリン。

俺のピアノ。

そして、変奏曲の旋律。


すべてが、少しずつ「変奏」されていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ