TEXT48:青薔薇の令嬢
ーーーー 翌日。予報では天候は晴れだったが、その日は珍しく雪がちらついていた。寝起きの体を起こせば、美琴はいつものようにまず、オーナーへの報告のメールを打ち込む作業に取り掛かった。
高級クラブ、【Re:verb】での出来事。
・・白銀のマキナロイド、アルバの事・・ヴィクターグループの幹部であるデウスロイド、マックスの事
ーーー そして、ほんの少し〝様子の変わったツヴァイ〟の事。
『・・・うまく言えないけど・・あの日の夜から、なんか雰囲気が違うんだよなぁ。』
キーボードを打ちながらふと、美琴は画面越しに背後で朝食の支度をしているツヴァイに視線を移す。
いつも通りの気だるげな色気とほんの少し余裕を込めた眼差し。・・・普段のツヴァイであるはずなのに、〝どこか違う〟ように美琴は感じ取れていた。
・・・あの夜、マックスと何を話したのかを尋ねてもツヴァイは教えてくれなかった。
「お前は知らなくていい。・・・ただ・・・俺だけ信じていてくれ」
ーーーー そう言って見つめてくる瞳はどこか切なく、しかし氷の下で燃え続ける炎のような熱が込められているように感じた。
『・・・ツヴァイが裏切るなんて〝絶対にありえない〟からその心配はしてないけどさ・・』
俺だけを信じてくれ、とはいったいどういう意味なのだろうか。
「・・・おい、」
いや、確かにツヴァイはやけに執着心が強いとこがあったから、特に気にする事でもないだろう。・・しかし、それにしても・・・
「・・・・おい、マスター様。」
「っひゃ!?」
そう物思いに耽っていると首筋に感じた冷たさが走る。慌てて美琴が振り向けばそこには、黒のワイシャツを腕まくりして呆れたようにため息をつくツヴァイの姿が居た。・・どうやら自分の手の甲を首筋に当ててきたらしい。普段はサングラスで隠されているアイスブルーの瞳が困ったように、しかし呆れと愛情を込めた眼差しでこちらを見つめてくる
「・・・仕事熱心なのは結構な事だがな。せめて作った側としちゃあ・・冷めたトーストはお前に食わせたくないんでね。」
ツヴァイの言葉にテーブルを見れば、すでに二人分の朝食が出来上がっていた。焼きあがったトーストにはすでにバターが塗られているらしく、食欲を誘う香りが美琴の鼻孔をくすぐる
「あぁ・・ごめん、ちょっとボーっとしてた・・・」
「おいおい・・しっかりしてくれよ?・・あのパワーバカの坊やがまだヤタガラスで検査中なんだしよ」
たしかに・・今までは三人での騒がしい朝食風景だったが、こうやってツヴァイと朝食を取るのは何年振りだったろうか。
「・・・・いただきます。」
椅子に座り、焼きあがったトーストを齧りそのままベーコンエッグをフォークで刺して口に頬張る。・・うん。やはり美味だ。
もぐもぐと朝食を食べ始めた美琴を見て、ツヴァイも向かいの椅子に腰を下ろせば静かに朝食に手をつけた。
「・・・今日も行くのか?Re:verbに。」
「うん。・・・あそこがヴィクターの管轄下ってわかった以上はね。」
「まァ・・・それもそうか。」
朝食を食べながら他愛もない会話がリビングに木霊する。・・本当に久しぶりの空気だった。二人きりの朝食。穏やかな午前の日差し。・・だが、安息に浸り続けるわけにはいかないのだ。
「・・・アルバ、居るかな。」
「なんだよ・・やけに拘るじゃねぇか」
「いやー・・・なんか、ね」
ツヴァイの言葉に美琴はそう言葉を返すと静かに食後のカフェラテを啜り、ぼんやりとアルバの顔を思い出していた
無機質で美しいが、どこか儚さを滲ませたようなあの雰囲気が、不思議と興味を引いたのである
『・・・人形の歌姫、か』
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朝食を食べ終えた美琴とツヴァイはそのままRe:verbへ向かうことにした。外に出れば冷えた空気と灰色の空からは静かに雪が降り注ぎ、その光景が街並みにほんの少し色を添えていた
そして、雪の寒さに耐えるように道行くサラリーマンや学生、女性や子供、老人も皆暖かそうな恰好をして美琴やツヴァイの横を通り過ぎていく。
いつもの、どこにでもある風景のはずだった。
ーーー はず、だったのだが
「・・・・ツヴァイ、あれ・・・」
「・・・あァ・・・見たくないが・・・厄介事の匂いしかしねぇな」
前方、二メートル先に〝日常の風景とは場違いな少女〟が周囲をきょろきょろと見回している様子が二人の目に飛び込んできたのだ。
年はおそらく10代くらい。長いくゆるいロールのついた金髪に、高価そうなゴシックロリータファッション。胸にはかわいらしい熊のぬいぐるみを抱きかかえていて、まるで西洋人形のような雰囲気だった。
何かを探すようにきょろきょろと周囲を見回していた少女だったが、やがてツヴァイと美琴と視線が合えば嬉しそうな眼差しを浮かべてこちらにかけよってきた
「あの・・・」
可憐で鈴を転がすような声色だった。瞳は前髪で隠されているためよく見えないが、おそらく愛らしい瞳なのだろう。少女はツヴァイと美琴交互に見た後に意を決して言葉をつづけた
「Re:verbってお店・・ご存じですか?・・私の知り合いが働いているお店でして・・」
困ったように俯く少女にツヴァイがため息をこぼした後、少し見下したように声をかけた
「・・・お嬢ちゃん。Re:verbはお前みたいな〝箱入り温室育ち〟の行くような場所じゃあねぇぞ?・・社会科見学ならもう少し大人になってからしな。」
「まぁ!・・お父様から聞いた通りですわね。いけませんよ?紳士たる物、女性は丁寧に扱わないと!」
「・・・お父様だと?」
頬を膨らませる少女の口から出た言葉にツヴァイの目線が鋭くなる。
「お父様から聞いたって・・・君、私やツヴァイを知ってるの?」
目線を合わせるようにしゃがみこみ、美琴が少女に尋ねると、はっとしたように慌てて静かに頭を下げたた
「そ、そうですわね!まずこちらから挨拶しないと・・・」
そう言うと少女は静かにツヴァイと美琴の前で貴族の令嬢らしくフリルのついたスカートを指先で軽く持ち礼をした
「フランチェスカ。・・・ヴィクター・ベルンハルトの娘。フランチェスカと申します。よろしくお願いしますね?黒獣さんに、天使食らいさん。」
「「ーーーーーー は!?」」




