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ANGEL EATER  作者: 平藤夜虎
ヴィクターグループ編
43/47

text43:魔弾の射手

NEO六本木の高級クラブRe:verb、そのVIPルームの訪れたまさかの人物に、室内の空気が一瞬で変わった


紫のネオンが滲む店内の奥、金属の靴音が“コツン、コツン”と床に響く。



「・・・ッ!」


ツヴァイは反射的に身体を前へ出すと美琴の前に立つ。指先が無意識にコートの内ポケットへと滑り込み、愛銃【ジャンヌ&ハーロット】のトリガーに指をかけた



「・・・ヴィクターの、デウスロイド・・・」


ツヴァイの背後で美琴が息をのみそう呟くとマックスは低く、煙交じりの声を愉快そうに零した


「おっと、怖い顔すんなって。俺はただ、挨拶に来ただけさ」


まるで喉の奥に〝熱い酒〟を流し込んだような渋い声が店内に響き、その肉食獣のような瞳が二人を見つめる


「・・・・“天使喰らい”と“黒獣ジェヴォーダンビースト”──まさか本物がペアで現れるとはな。いやぁ、ツイてる夜だ」


ーーー アルファが居ないこの最悪のタイミングでまさか敵側の主線力が出てくるとは。


美琴の背にぞくりとした悪寒が走る。


そんな美琴を庇いながらツヴァイが口を開いた



「・・・・名前を知ってるとは、随分な情報通だな。“魔弾の射手”ってのは伊達じゃねぇか」


「情報は生きる武器だろ? 銃と同じさ。構え方次第で誰かを守ることも、壊すこともできる」


ツヴァイの言葉にマックスは得意げに笑った。そして軽く指を鳴らすと、ロングコートの裾から黒いホルスターが覗く。そのフォルムはヤタガラス製と酷似していた



「まさか──ヤタガラスの設計図を・・」



「手に入れた、とは言ってねぇよ? ……“共有”してるだけさ。ヴィクター社とヤタガラスは仲が悪いが、ネットの海ってのは広大でねぇ・・・〝たまに誰かがうっかり逃がした魚〟を吊り上げる時もあるってわけさ」


ーーー なるほど、どうやらヴィクター側にも〝ハッキングに特化した個体〟が存在いするらしい。


美琴はすぐに神結システムを発動できるように右手に意識を集中させる


「・・・ツヴァイ、構えて」


「もう言われなくても、そうしてる」


美琴の言葉にコートの内側から、ジャンヌ&ハーロットの冷たい銃口が覗く。


静かに殺意を高ぶらせる目の前の相手に魔弾の射手はにやりと笑みをこぼした


「・・・いいねぇ。その殺気。 “愛と狂気”は、いつだって紙一重・・・ さぁ、見せてみろよ、天使喰らい、そして黒獣・・・お前の“愛”がどれだけ人間臭ぇかをな──」


そうして、マックスもそのまま自身のホルスターに収められた銃口に手をかける。


「ーーーーー ッ!!」


緊迫した空気があたりに漂う。どちらかが仕掛ければ、血の雨が降る。そんなムードが数分間続いたが、マックスはふと苦笑いを浮かべると銃を引き抜こうとした手を両手に上げた


「・・なんてな。ジョークさ、ジョーク。だからそう殺気立つなよお二人さん」


「は、はぁ??・・・」


突然殺気を収めたマックスに美琴とツヴァイは思わず呆気に取られてしまったが、ふと、同じようにドアの前で事の顛末を見守っていた廻にマックスが声をかける



「そこのパーカーの坊や、アルバのショーを見に来たんだろ?・・・・そろそろ始まる。最前列で見てやれ」


「え、あ、・・・はぁ・・」


マックスの言葉に廻はあっけに取られつつも素直にアルバの元に向った。


その様子を静かに見送ればどかりとソファに座り美琴とツヴァイに視線を移す。そうして静かにテーブルに置かれた二つのグラスにロックウィスキーを注ぎながら語り掛けた



「さて・・・高い酒ならいくらでもここにある。・・・まァ、座りな。俺は俺個人として、お前達と話がしたくてね」


「・・・・チッ、心臓に悪ぃ登場だな」


どうらや今ここで戦うつもりはマックスにも無いらしい。戦闘の意思が無いと分かったツヴァイは不機嫌そうに抜きかけた愛銃をゆっくりとホルスターに戻した。その様子に美琴も深いため息をつき、息を整えながらツヴァイのコートの袖をくいっと引いた


「・・・もぉ・・・ほんと勘弁してよ!」


「ハハ、悪かったよ。ついクセでな。人間は冗談を言う時、銃を抜かねぇってのに・・・どうやら俺はまだ、学習が足りねぇらしい」


美琴の言葉に苦笑してマックスはサングラスを外す。その奥の瞳は、静かな銀色。夜明け前の空のように澄んでいた。


「・・・・あんたの冗談は、死人が出るレベルだぜ」


「そういうタイプのジョークしか覚えてねぇんだ。・・・ほら、座れよ。冷める前に飲もうぜ」


ツヴァイの言葉にマックスはそう軽口を返した。注がれていく琥珀色のウィスキーが照明を受けて鈍く光り、 マックスはグラスを差し出すと、少しだけ笑ってみせる


「乾杯の理由なんてなんでもいい。戦場に立つ前でも、墓穴に入る前でもな」


「じゃあ、平和の前触れ、ってことで」


マックスの様子に美琴は近くにあった炭酸水を手にしてソファに座る。続けてツヴァイも美琴の傍に座り、ウィスキーが注がれたグラスを手にした


「・・・・“前触れ”があるうちは、まだマシだ」


二人が軽くグラスを鳴らす。短い、けれど重たい音が小さく響くと初めにマックスが言葉を切り出した


「・・・・さて。あんたら、何を探してる?」


背もたれに身を沈め、マックスは低い声で続ける


「“ヴィクター”に敵意を向ける奴は星の数ほどいる。だが──“天使喰らい”と“ジェヴォーダン”が揃って動くのは初めてだ。・・・目的を聞かせちゃくれねぇか?」


静かに問いかけてきたマックスにツヴァイが皮肉を込めて言葉を返した


「・・・“目的”、ね・・・便利な言葉だよな。お前らのやること全部、それで正当化できる」


「正当化か・・・俺はそんな立派なもんじゃねぇよ。 ただ、“あの子”を見て確信した。ヴィクター社はもう、限界を越えてる」


「…限界?」


首を傾げる美琴にマックスが頷く過く


「・・・幸い上にはまだ漏れちゃいないが・・・〝疑似感情が成長の兆しを見せている〟マキナロイドやデウスロイドがちらほら出現してきてるんだよ。」












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