text41:ガラテアは恋をするか?
アルバの案内でVIPルームに通された美琴とツヴァイだったが、ふとあることに気が付いた美琴がぽつりと呟いた
「でも、廻くんもデウス「うわぁああ~!」もがが!?」
美琴が言いかけた途端に、廻が慌てて自分の両手で口元を塞ぎ、声を潜める
「・・・美琴さん、俺一応ここには人間のフリして来てんのッ!!だからっ!シーッ!」
「・・・おいおいおい、なにしてやがんだ廻。マスターの口塞ぐとか、お前命知らずか?」
廻の言葉に美琴は苦笑いをして頷くと、どうやらその対応が癪に障ったらしくツヴァイが低い声で軽く牽制をかけた。・・しかしサングラスの奥で鈍く光るアイスブルーの瞳には明確な殺意も滲んでいる。
そんなツヴァイの様子に廻は慌てて苦笑いを浮かべ大げさな口調でその牽制をごまかした
「ち、違っ、ちがうからね!?ちょっと声がデカかっただけ!・・・つーか、元々この店、“ヒューマンオンリータイム”なんだよ・・・」
廻の言葉に美琴がふと首を傾げる
「へぇ・・ヒューマンオンリー・・ってことは本来はデウスロイドは入れないんだね?」
「付き添いや護衛、って名目ならいいんだけどね・・・デウスロイド単体はアウト。」
困ったようにため息をつく廻に、ツヴァイは腕を組みからかうように視線を向ける
「・・・・人間のフリねぇ。ずいぶん器用な真似するじゃねぇか。“デウスロイド特有のノイズ”も隠せるようになったとは」
「仕方ねぇんだって・・・・個々の店の経営元・・・ヤタガラスの敵対してるヴィクター社なんだから」
「!」
廻の言葉に美琴の視線が一瞬鋭くなるが、ふと、アルバが静かに口を開いた
「・・・廻、あまり騒がれると目立ちます。──特に、ツヴァイ氏は“ホスト野郎”として一部の女性客の記録に残っておりますので」
「ほ、ホスト野郎?・・・っぷ、くくく・・・」
アルバの口から出たまさかの情報に美琴が思わず吹き出してしまうと当の本人であるツヴァイはあからさまに不機嫌そうな表情でアルバを睨みつけた
「・・・おい、それはどういう意味だアルバ。俺はホストなんかじゃ──」
「いやいや!!“デウスロイド業界で最も女性ユーザーに検索された個体”とか言われてんだぜ?アンタ・・・あ、もしかして今さら照れちゃってる?」
「殺すぞコラ」
ここぞとばかりに茶化してくる廻にツヴァイはホルスターに納めている愛銃【ジャンヌ】のグリップを握りかけたが、ふと視線の先で相変わらず笑みをこぼしている美琴に眉を潜めた
「・・・ぷっ、ふふっ、ツヴァイ・・・“ホスト野郎”って似合ってるかも」
「おいマスター様。今、なんて言った?」
「な、なんでもなーいっ!」
ツヴァイの声に美琴が慌てて目を逸らすとその横で、廻が小声でこっそりと語りかけてきた
「・・・・ほんとにさ、アルバに惚れてるんだ俺。でも、ここじゃ“俺が人間じゃない”って知られたら、もう終わりなんだ・・・最悪、もう二度と会えないかもしれないし」
「・・・そっか・・・“恋してる”んだね」
本気の様子の廻に、美琴は口元を緩めてどこか楽し気に尋ねた。その様子に廻はどこか照れくさそうな、しかし困ったような苦笑いを浮かべて再度、美琴に尋ねる
「・・・恋、かぁ。・・・美琴さんはさ、デウスロイドにそんな機能、あると思う?」
「え?それは」
「──あるに決まってんだろ。俺がその証明だ」
廻の問いかけに美琴が答えようとした瞬間、ツヴァイが美琴の腰を軽く引き寄せる。そのまま廻とアルバに見せつけるように美琴の耳元に唇を寄せて低く、美琴の耳をくすぐるように囁きながら話を続けた
「・・・“誰かを好きになる”ってのは、仕様じゃねぇ。存在の根っこがそう望んじまうんだ。なぁ、美琴?」
「ちょっ・・・もう・・急に言うんじゃないよ・・・」
ツヴァイの言葉に照れくさそうに顔を伏せる美琴の様子に、一瞬アルバの虹彩に小さなパルスが走る
「ーーー それは、〝バグ〟ではないのですか?」
「・・・・・」
「デウスロイドやマキナロイドが、誰かを本気で想うと言う行為は・・あってはならないとヴィクターグループは世界に警鐘を鳴らしています。・・・ならーーー」
「勝手に決めたのは人間側だろ?」
「・・・・・」
ツヴァイの静かな眼差しと言葉に。アルバは静かに自分の胸元を押さえる。それを見ればツヴァイはさらに話をつづけた
「・・ウチのマスター様曰く・・・感情をバグだと言うなら人間だって似たようなもの、なんだそうだ・・まぁ、むしろ人工生命よりも人間のほうがもっとえげつないだろうけどな」
ツヴァイの言葉に廻がぽつりと軽い冷やかしの言葉を漏らす。だが、その瞳にはどこか安堵の色が見えた
「・・・へぇ。相変わらず“口撃力”えげつねぇなホスト野郎」
「・・・お前、あとで外出ろ」
廻とツヴァイの様子に美琴はやれやれとため息をつけば、アルバに視線を移し問いかけた
「・・アルバって名前、ラテン語で白って意味だよね?・・その・・・でもほっとしたよ。好待遇を受けてるみたいでさ」
「・・・残念えすが、ここで働いているマキナロイドだけです。美琴様」
「え・・・・・」
アルバの声が響く。透明で、どこか無機質なその音色が、空間全体を支配した
「・・ご存じなかったのですね。基本的に・・〝ヴィクター社製のマキナロイド〟の境遇は劣悪です。私はただ、運が良かっただけ・・・」




