表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ANGEL EATER  作者: 平藤夜虎
海市蜃楼編
35/47

TEXT35:幕間~死神の盤面・結~


「ーーー 交渉の場で優位に立てた。そう勘違いしちゃいねぇか?ヤタガラス。」


しかし、その張り詰めた空気と沈黙を破ったのはツヴァイの低く、重たい声だった



「・・・なんだと?」


いぶかしむオーナーを見てツヴァイはゆっくりとサングラスを外す。氷のようなアイスブルーの瞳が美琴をかばうようにヤタガラスの構成員全員を射抜く



「違うぜーーー今この交渉の場じゃあ、〝俺たちが〟優位に立ってる。」


その言葉に構成員数人が身構えるが、ツヴァイは静かにコートのポケットから箱型のUSBを取り出すとオーナーへ投げつける


「おい、なんだこいつは。」


オーナーがそう声をかけるが、ツヴァイは何も答えず顎でクイッと動かし口元に笑みを浮かべたまま何も答えない。


ーーー いいから開けてみろ、と言う事らしい。



それを見てオーナーは少し不信そうにその箱を構成員に手渡した。


「・・・データファイル?」



構成員の一人が手に取り、恐る恐るタブレット端末へ接続を開始したその瞬間


画面が、真紅に染まるように変化する。


「!?・・・・・てめぇ・・・」


「・・・・なんだこれは」


「こ、この情報は・・・」



---

【WARNING】


CLASSIFIED DATA BREACH

AUTHOR: W-ZWEI_02

---


■ 大和独立党・高官の裏金リスト

■ ヤタガラス幹部のDNA改造実験記録

■ プロメテウス社・次世代兵器“[Project KAIROS]” 開発映像

■ 米政府内部のAI兵器汚職証拠映像(時間:23分47秒)

■ラプラスデビル症候群極秘データ

■海市蜃楼社・極秘薬物兵器開発映像とそのワクチン生成方法

■ヴィクター、プロメテウス社合同製作の新型核兵器ミサイル開発情報

■プロメテウス社製米軍新型ステルス戦闘機開発記録情報

■現日本政府高官全員の汚職、裏金、人身売買などの犯罪経歴リスト

---


「これ、は・・・・」


「ッ……!!これ、本物か!?なぜこんな情報が──」


赤く染まった画面に表示されたもの、それは現日本政府がひた隠しにしてきた闇。万が一出回ってしまえば日本政府側にとって大打撃を受ける情報と


戦勝の勝利国である強国、ひいてはその三大企業の秘蔵データ・・今のヤタガラスからすれば喉から手が出るほどほしい情報がズラリと並べられていた。


どれもこれも国家機密物の情報体、もしハッキングしたとしても膨大な知識量と技術、そして時間を以てしてでも1つ得られれば有益であると言われる物を


目の前に居るこのデウスロイドはヤタガラスが接触を図る数日前からこれだけ集め、交渉材料として提示してきたのだ



その事実に全員が絶句し息を呑み、凍りつく。まるで心臓を掴まれたような沈黙が流れる中でツヴァイはポケットに手を入れ、ブラックデビルを咥えたままにやりと笑う



「なァ・・コイツを見せてもどっちが交渉のカード持ってるか、まだ分かんねぇか?」


射貫くようなアイスブルーの瞳が愉快そうに弧を描く


「ほら、よーく見てみろよ。・・・“未来に口を挟んでいい立場か”どうか、判断してみろ。」


「貴様ッ!!我々への見せしめか!!」


余裕の態度を崩さないツヴァイの様子に構成員の一人が手にしていた自動装填式拳銃をツヴァイに向けて引き金に指をかける。しかしそんな様子にもツヴァイは臆さず静かに言葉を紡ぐ


「見せしめ? 違うな。これは“選別”だよ──誰が、未来に残るに値するかのな。」


そうして、そこまで言いかけると自身の背後に下がらせていた美琴を優しく片腕で抱き寄せるとその眉間に静かにデザートイーグルの銃口を突き付けた



「っ!?・・・テメェ、一般市民を盾に取る気か!!」


その様子にオーナーもコートの内ポケットに忍ばせていたベレッタを取り出しツヴァイに向かって構えるがソレにも臆さずにツヴァイはにやりと笑った


「・・ウチのマスター様は先の大戦で全身にひどい火傷を負っちまっててな・・その際に〝偏屈な藪医者〟に無償で治療手術を受けた・・・ある事と引き換えにな」


「ある事だと?」


「・・・・先の大戦時、完成間近に導入されることなくお蔵入りになったがアンタらからしたらその情報と同じ・・いや、それ以上に喉から手が出るほど欲しい物。」


「はったりカマそうってんならそうはいかねぇぞ。こちとら大戦中の日本軍データを・・」


「ーーー ウチのマスター様が〝神結システム〟の適合者だと言ってもか?」


「!!?」


神結システム


その言葉がツヴァイの口から出た瞬間ヤタガラス構成員全員の表情が一気に強張った


「てめぇ・・・どうしてその事を・・・答えろ!!その女が神結システムに適合したっつーのは事実か!?手術を施したその藪医者の行方は!!」


銃口を向けたままオーナーはツヴァイに向かって焦ったように声を荒げるがツヴァイは静かにイーグルのトリガーに指をかける


「・・だから言っただろう?・・・勘違いしちゃいねぇかってな・・」


「っ・・・」


「交渉じゃねぇよ。……これは“宣告”だ、ヤタガラス。」


静かにツヴァイの瞳がオーナーを、そしてヤタガラス構成員全員を射抜く。


『ーーーーー ・・打つ手が、無い。』


銃口を構えたままオーナーは静かに心の中でそう確信した


自分たちが相手にしていたのはただの暴走して組織から抜け出した野良デウスロイドなどでは無い。


ーーー 怪物。


こちらの10手先を・・否、こちらがどう動くか、どう攻めてくるか。その何百何千何億通りの予測をすべてこのデウスロイドは記録しその対策案を全て計算し終わっているのだ。


『・・たった数分、いや・・数秒間でヤタガラスについて調べた挙げ句こちらの弱点と必ず飛びつくだろう情報を用意してくるか』


目の前の相手を見誤った自分に、オーナーは深いため息をつく


『・・化け物じみた演算処理能力・・舌戦、交渉の場じゃあコイツに叶う人間もデウスロイドも世界中どこを探しても現れやしねぇ・・・飛び抜けていやがる、全てに置いてコイツは・・・なるほど、だからこその【ジェヴオーダン・ビースト】のコードネーム・・・・こんな化け物、ただの人間じゃあ制御しきれねぇ。』


プロメテウス社製兵器型デウスロイド、選ばれた10兄弟(ナンバーズ)の二体目。


コードネーム:ジェヴォーダン・ビースト


人間の理屈では倒せなかった。


銃も刃も追いつかず


最後には祈りにより倒された化け物


・・・ならば、この獣にとっての祈りがこの女なのだろうか


「・・・全員銃を下ろせ」


「オーナー!?で、ですが!!」


「いいから下ろせ。・・・まだわからねぇのかお前ら。」


深いため息をつきオーナーがツヴァイと美琴を見つめる



「ーーー 負けたよ。完敗だ。」


「だったら・・・」


「あぁわかってる。お前たちが望むモンはこちらで用意するし・・お前たちの好きなように動けばいいさ。どうせ利害は一致してるだろうからな」


やれやれと深いため息をつくオーナーに美琴がツヴァイに抱きしめられたまま声をかける



「ど、どういうこと??・・私アンタに【俺を信じて大人しくしててくれ】って言われてソレを守ってたんだけど・・・」



「あぁ?・・・あー・・・ようはこのオッサンたちもお前と同じくプロメテウス、ヴィクター、海市蜃楼社の崩壊が目的なんだとよ」


「はぁ!?だ、だったらここまで大事にしなくてもよかったじゃん!!」


腕の中で抗議する美琴にツヴァイは悪びれた様子もなく言葉を返す




「お前以外に従うなんざ俺は嫌なんでね。」



挑発的なアイスブルーの瞳に美琴は深いため息をつくしかできなかった。



こうして、美琴とツヴァイはヤタガラスに〝雇われる身〟になったのである。



切り札(ジョーカー)と言うものは確かに強力な物にもなる


しかしソレは時にすべてを壊す諸刃の剣ともなる


だが


だからこそ



狂気的なまでに、暴力的なまでに



得た勝利と言うものは完美な美酒に変わるのだ。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ