TEXT33 幕間~死神の盤面・承~
同時刻 新宿歌舞伎町。日本で一番のラブホテル街は新宿・歌舞伎町周辺であるとよく週刊誌などに取り上げられてはいたが、先の大戦後は様々な文化が入交り一種のアンダーグラウンドと化していた。風景を埋め尽くすように建てられた様々なデザイナーズマンション風のホテル街。その奥のほうにひっそりと佇む高級ラブホテルがある。
ーー ホテル【ブラックマンバ】
表向きは少し値段の高い高級ラブホテルであるがその裏では金さえ積めばどんな訳アリの人物さえも匿うという非合法なシェルター施設でもあった。
・・・そしてその最上階にある222号室が〝美琴とツヴァイ〟の仮の寝床であった。
「・・・・・・。」
モノクロを基調とした壁紙や家具、そしてベッドのある部屋にシャワーの音だけが静かに響いている。乱れたベッドシーツと周りに脱ぎ散らかされた衣服が昨夜の出来事と熱を物語っていたが、そんな事など気にせずツヴァイは上半身裸に黒のスラックスのままベッドに浅く座りノートパソコンを開き何かを調べているようだった。
「ツヴァイ~?」
ふと、先ほどから響いていたシャワー音が止まり奥の浴室からツヴァイの黒いシャツを着てタオルで頭を拭きながら美琴が現れる。その様子を横目で見た後にテーブルに置かれたブラックデビルを咥えて火をつけるとツヴァイはわざとらしく笑みを浮かべた
「へぇ~?ずいぶん美味そうな姿でケダモノの前に現れるモンじゃねぇの、マスター様」
「・・・あのねぇ、さすがに5ラウンドは足腰使い物にならなくなるから断固拒否しますからね?じゃなくて・・何してんの?」
ツヴァイの軽口に頬を膨らませて左目に眼帯をつけなおすと、美琴はそのままツヴァイのノートパソコンをそっと覗き込む。このデウスロイドを拾い2週間経たち警戒心などは無くなってはくれたものの、美琴はツヴァイの力がいかほどの物なのか測りかねていたのである。
戦闘面においては文句なし。たまに命令違反もしするしマスターである自分に対して軽口を叩いてくるがそれもツヴァイの構築された人格や性格のようなものなので別に文句はなかった
・・・まぁ、愛玩機能としても文句は無い。
だがそれでも美琴にはツヴァイが自身の力の半分も見せてはいないと言うことは理解できていたのだ。
『・・・・まだ完全に信頼されてない、ってことかな』
そんな事をぼんやりと考えながらツヴァイのノートパソコンに移る文字を眺めていたが、ある事に気が付く。
「・・・・ちょっとツヴァイ、アンタ・・そのデータは!!」
「あん?・・・コレがどうかしたか?」
ツヴァイは口元に笑みを浮かべて軽く返してくるが画面上に映し出されたデータはそんな物などでは無かった。
全企業、各国政府の政党数や役員の個人データ記録。各国の戦闘兵器設計図や世に出ていない汚職事件のデータや明るみに出せば世界政治に亀裂が走るような情報
ーーー この世界のブラックボックスがツヴァイのパソコン画面に映し出されていたのだ
「アンタ、いつの間にこんな情報を・・・」
驚く美琴にツヴァイは静かに紫煙を天井に吐けばタバコを持つ手の人差し指で自分のこめかみをトン、と叩く
「俺の演算処理速度は一秒間に約17.2兆回・・人間の脳と神経伝達速度の約1,000万倍・・量子演算と神経模倣AIの複合演算を組み合わせててな、通常のスパコンの演算を指先一つで上回れる。」
「じゅ、17.2兆!?」
驚きの声を上げる美琴にツヴァイはさらに話を続けた
「例えば、お前が一瞬瞬きをしたその0.3秒間・・俺の中では51億回の判断と予想が走ってんだよ。」
「そ、そりゃすごいけど・・でもソレとこの情報と何の関係が・・」
「敵が戦場にたどり着く前に終わらせる。・・・ソレが俺の流儀でもあってね」
「!・・・アンタ、もしかして・・・」
まさか自分たちの障害になりうる可能性のある組織すべての情報を調べ上げたと言うのか。
確かにここ三日間たまにパソコンとにらめっこしている事が多くあったが、まさかこれだけの情報を調べ上げていたとは
「・・・・昨日の夜、俺たちの周囲を嗅ぎまわってる妙なデウスロイドが居てな」
「・・・壊したの?」
「いいや?相手の弱みとなる情報を見せつけて忠告しといた。俺たちにちょっかいかけて来るなら・・組織で来いってな」
そこまで言うとツヴァイはポケットから小さな黒い箱状のUSBメモリを取り出し接続すると何かのデータを移し始める。美琴には一体何をしているのか理解できなかったが少なくともツヴァイが何かを企んでいると言うことは理解できた
「さて、マスター様。そろそろ着替えて外に出るとしようか」
「は?・・何でまた・・・」
首をかしげる美琴にツヴァイはにやりと笑うとハッキングしていたホテルの正面玄関にとりつけられた防犯カメラの画面を映す。
そこにはホテルの管理人となにやら話をしている数名の黒ずくめの男たちが見えた
「ーーーー 俺たちに用のあるお客様が来たみたいだからな。」




