TEXT31:壊れた獣
その頃、桃源城最上階のヘリポートには一機のヘリが到着していた。迷彩柄のボディには海市蜃楼のエンブレムが刻まれておりそのヘリに複数人の海市蜃楼の役員たちがアタッシュケースを積み込んでいく。その様子を横目で見ながらもどこか苛立ったような声色で丹韻は呟いた
「チッ・・・忌々しい小娘如きが私の築き上げた宝をよくも・・」
「社長・・荷物はあらかた詰め込みました。ヘリもいつでもフライトは可能です」
部下の言葉に眉間を抑えて深くため息をつけば丹韻は傍で困惑したように狼狽える現ネオチャイナ政府の役員に声をかけた
「ご安心ください、楊議員・・今賊どもは私のデウスロイドたちが食い止めております。今のうちに脱出しましょう」
「そ、そうかね?・・だが、貴女がそう言うのならばそうなのだろうな・・丹韻社長。」
「ほとぼりが冷めるまでドバイにでも身を置きましょうか・・・お互い人類のために〝貢献を重ねてきた〟んですもの。・・羽を伸ばすくらい誰も咎めませんわ。」
そう言って丹韻は用意されたヘリに議員と乗り込もうとしたが
「ーーーーー あぁ。ソレはよくないなぁ。」
突如降り立った〝白いフクロウ〟がその逃走を許すことはなかったのだった。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・・-・-
場所は戻り、桃源城地下闘技場リング
「なんだよつまんねぇな・・・まだ健在だったのか坊や」
決勝戦が始まろうとしたその時、別行動を取っていたツヴァイが闇の中から現れ美琴とアルファの近くへと歩み寄ってきた。サングラスから覗くアイスブルーの瞳は不適に歪められその手には〝USBメモリ〟が握りしめられている。
「テメェ・・・何してやがった女王サマ。」
「俺は坊やと違って色々と重要な事を任されてる立場なんでね」
睨みつけてくるアルファにそう軽く言い返せばツヴァイはホルスターに納められた2丁の拳銃、H&K=USPMatc、ColtM1911・・通称【ハーロット&ジャンヌ】を構えて静かにリングに上がる。そこにはすでに戦闘準備を終えた海市蜃楼のデウスロイド、デルタとガンマが静かに佇んでいた。
アルファの兄弟機であるデウスロイド、デルタとガンマ
海市蜃楼の技術、戦闘知識のすべてを搭載したその結晶。冷酷な殺戮マシーンであり丹韻の〝都合のいい玩具〟である。
「っははッ!!・・失敗作とプロメテウス社から逃げた野良犬が相手か・・・一方的な殺戮ショーでこのトーナメントは終わりにしてやるよ」
「そう軽口を叩くものじゃあないよガンマ・・・油断をすれば我々が壊される、なんて結末もあり得るのだからね」
そう呟き、デルタは眼前に佇む〝二体の壊れた獣〟を見つめた
海市蜃楼の失敗作、そして黒獣の夜事件を引き起こしたプロメテウス社の個体
元々デウスロイドに感情や魂などは存在しない
ただ主の命令のまま動く自動玩具。新たな生命とうたわれつつもその根底は人間への隷属種・・使い捨てられるツールそのものであるはずなのだ
ゆえに、感情を持った個体たちに負けるような事はけしてありえない
ありえないはずなのだが
「・・・・・・」
ーーー 嗤っている。
けして逃げれぬ地獄のトーナメント、壊される可能性もあるはずのこの場所で
眼前に立つ二機は嗤っているのだ
「ーーー せいぜい吠えてろよ玩具人形共が」
両腕に握られたハーロット、そしてジャンヌの銃口をガンマとデルタに向けながらツヴァイが笑う。
「言ったはずだぜ。ガンマ、デルタ」
そしてアルファも静かにリングにあがり両腕に構えたドゥルガー、カーリーにと取り付けられた小さなピンを牙で噛み引き抜く。
「!」
「なんだ?・・・」
様子をうかがうデルタとガンマだったが次の瞬間でドゥルガー&カーリーから電子音声が流れる
【トリガー解除を確認。パイルバンカーモードから炎神の鉤爪へと移行します】
その声が聞こえたと同時に鈍い機械音を立ててアルファのガントレットが静かに形を変えていった。
全てを貫く鉄杭だったそのガントレットには赤さびのような、赤銅色の鋭い刃がぎらりと光る
まさしく、猛獣の鉤爪のような形へと変化したその爪は静かに躍己の目の前に立ちふさがる敵を屠らんと躍動を開始した
「不本意だが共闘してやるよ坊や」
「ッは・・うっかり流れ弾に当たっても文句言うなよ坊や」
アイスブルーの瞳と深緑の瞳が狩りの色へと鈍く輝きだす
『決勝戦!!デルタ&ガンマVSツヴァイ&アルファ!!レディー!!!!!』
そして、狩りを始める獣の遠吠えに似た銃声が一発木霊した。




