TEXT30:Dedicated to the moonlight
「さぁ・・・反撃開始だ。」
重く地の底から響くような重低音がリング内に木霊する。両腕に装着されたパイルバンカーガントレットから力を籠めた際に生じられる煙が静かに立ち上る。
『こ、これはどういうことだぁ!?先ほどまで優勢だったヒュドラ!!一歩も動かないぃ!!まさかアルファに怖気づいたとでも言うのか!?』
リングアナウンサーの言葉にヒュドラは怯えたように一歩後退したがふと、そのボディに取り付けられた無数の眼球が一斉にアルファを見る
【・・シテ、ください】
「・・・・」
【コロシテクダサイ】 【アルファタイチョウ、ドウカ】【スベテコワシテ】【モウラクニナリタイ】
聞こえてきたのはノイズのような慟哭だった。
ああ、そうか・・そうだったのかお前たち。
お前たちも苦しんでたのか。ずっと、ずっとこの地獄から
「・・・・待ってろ。」
そう呟き、アルファは右手に装着したパイルバンカーガントレット【ドゥルガー】に力を籠める。体内に蓄積されたその熱にこたえるかのようにドゥルガーが鈍い音を立てると徐々にその形が巨大なパイルのソレへと変化していく
『お、おいおい!!チクショウ!!興奮剤がキレやがったのか!?動けヒュドラ!!このままじゃ俺たちが社長に消されちまうだろうが!!』
リングアナウンサーが場外からヒュドラに対して怒りの声を上げる。しかしヒュドラはその無数の瞳から静かに涙を流すとついにその動きを止め〝己が迎えるべき最後の時〟を静かに待っているかのような構えを取っていた
【イキテ】【イキテ】【生きて】【生きてください隊長、俺たちの分まで】
「ーーーー おう。」
ドゥルガーが炎熱と稲妻を纏い、終わりを迎える鋼鉄の槍に力が灯る
ーーー 自分も何かを間違えていればこいつらのようになっていたのかもしれない
いつも戦場から戻ってきた自分を呪い、悔やんでいた。
だからこそあの玄塔にて怒りの炎と慟哭を叫びつつ自分は消え果ていこうとそう思っていた
「アルファ!!」
「応!!!!」
ーー だが、悪いなお前たち。俺はまだくたばるわけにはいかなくなっちまった
・・・だから、せめて
「うぉおおおおおおお!!!!」
ーーーーー この一撃を手向けとして受け取ってくれ。
けたたましい轟音と炎熱とともにヒュドラの体は一瞬にして吹き飛び、最後にそこに残ったのは鉄くずとデウスロイドたちのパーツのみとなった。
『・・・だ、第九回戦・・・か、勝ったのは・・・勝ったのはアルファだぁあああ!!!!!』
リングアナウンサーの決着を告げる声に静まり返っていた観客席から一気に歓声が巻き起こる。
「アルファ!!」
その中で美琴は一人アルファの傍に近寄りその体を静かに抱きしめた。今までのアルファの苦痛や悲しみ。そして覚悟をすべて包み込むかのような力強い抱擁にアルファは静かに笑みをこぼす
「・・安心しろよ。お前の獣はこんな所で止まったりしねぇ」
「っ・・・アルファ・・」
「さて・・次がいよいよ本番だ・・気ぃ抜くんじゃねぇぞ」
少し乱暴に美琴の髪を撫でたアルファがそう答える。美琴もその言葉に静かにうなずくと静かに息を吐いた。




