TEXT20:虎穴へ
Q:あなたは、人間ですか?
「いいや、違う。僕はデウスロイドだ」「いいえ、私はマキナロイドです」
Q:あなたには、愛する人がいますか?
「もちろんさ。彼女が居たから、僕はただの人工生命体から感情を持つ存在になれたんだ」
「彼が居たから、私は幸福でいられる。・・・幸せよ。とても」
Q:その感情はバグですよ?
「・・君たち人間から見ればそうだろうな。でも構うもんか!」
「そうかもしれない・・でも、私はソレがバグであってもいいの!彼を愛してるから!」
Q:その感情はバグ。君たちが持つべきものじゃない
「どうして決めつけるんだ!?僕はこんなにも彼女を愛してるんだ!彼女だって・・・」
「おねがい、そんな悲しいこと言わないで!だって、だって彼は・・・」
Q:ソレも、人間側がお前たちに与えた、ただのプログラミングだ
「やめろ・・やめてくれ!!もう聞きたくない!!」
Q:お前たちが〝人間になれる〟訳がないだろう。機械の分際で思い上がるな
「やめて、ねぇ、貴方からもこの人に言ってちょうだい!!私たちは本気でーー 」
ーーーーー ズドン。
研究員からの指示で俺は手にした拳銃の引き金を引く。何か言いかけていたであろうデウスロイドとマキナロイドはそのまま重力に従うように地に倒れて動かなくなった。
いつもの事、そう感じていたはずだったのにその時だけはこの二人の〝悲痛な叫び〟が耳に焼き付いて離れやしなかった。
デウスロイド、マキナロイド
人間の為に作られた新たな人類で、人間の奴隷で、消耗品で
ーーー 機械の体と、人間の脳を植え付けられただけの、人工知能
それが、当たり前のはずだったのに
ー ・・・雨、冷たいでしょう?ほら、濡れてると風邪ひくよ? ー
ー ・・近寄るな・・俺は兵器だ・・・人間じゃねぇ!!! ー
ー うん。知ってるよ?・・・・でも、お腹は空くでしょ? ー
あの夜の雨音と雫が、あの声と笑顔が
俺の演算機能に感情を植え付けたんだ。
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要、朔の護衛任務からひと月経った、美琴たちのアジトである【NEST】には思わぬ珍客が訪れていた
「ほんッッッ・・・とに、すみません!!またしても!!ウチの!可愛い妹分が!!」
ネストのリビング。大きなテーブルを挟んだその向こうには数日前に初めて対面したヤタガラスの支援者である男。
大和独立党の代表である霧島直真が冷や汗をかきながら頭を下げており、その隣には腕の怪我が少し良くなり顔色も出会った当初よりすっかり良くなった少女。東雲要が相棒のデウスロイドである朔を連れて座っていた
「き、霧島代表頭上げてください・・ね?」
苦笑いを浮かべながら霧島を宥める美琴を見ながら、ツヴァイとアルファを溜息をついた
ーー ことの発端は三日前の夜だった。
要と朔の護衛任務と言うある意味大役を任されて以降、ヤタガラスから目立った仕事の依頼は入って来なかった。いつものように飼い猫探しや違法カジノの摘発、そしてヤタガラス・・ひいては大和独立党に害のある組織の殲滅などを請け負っていた中、オーナーからの指示で向かった横浜にまだ残っていた海市蜃楼の子飼いグループが建てた施設の破壊依頼を受けて出向いたときの事だった
「美琴さん?」
そう、なぜか其処に・・いや、絶対にいたらマズイはずの要と朔の二名にばったり遭遇してしまったのだ
しかもその朔の背には気絶した見慣れぬデウスロイドが一名
「びっくりしてすぐに霧島さんに電話しちゃったわ」
「・・なぁ代表さんよ。〝少々〟お転婆すぎじゃねぇのか?アンタの妹は」
ツヴァイの言葉に霧島はティッシュで鼻をかみ、涙を拭うと
「し・・心臓がいくつあっても足りないです・・・って、そうだ。話は三日前の夜のお礼だけではないんです」
「・・と言いますと?」
美琴の言葉に霧島は真剣な表情で話を続ける
「・・お三方が向かわれたあの施設、ネオチャイナ側の軍事実験施設で第三区戦闘AI開発部門と呼ばれていた場所なのですが」
そこまで言い終えれば霧島はある一枚のUSBメモリを美琴たちに手渡した
「これは?」
「・・・ネオチャイナ側が海市蜃楼側に依頼し、第三区戦闘AI開発部門に武器製造など一任していた・・・【新型二足歩行自立重機】の設計データです。」
霧島の言葉に美琴の目つきが一気に鋭くなった。それを察してか霧島も苦し気な表情で言葉を零す
「・・・海市蜃楼は利益のためなら〝非人道的な方法〟も平気で取り入れる外道のたまり場のような場所です・・・」
「・・・・・ブレーンとして使用されたのは・・・〝拉致や誘拐してきた子供達〟かな」
その言葉に朔が美琴に何か言いかけようとするがソレを霧島が静かに静止させる
「朔、・・・黙っていてすまない。けれどーーー 要はもう気づいてるよ」
霧島の言葉に驚く朔だったがふと苦虫をつぶしたような表情で言葉を続ける
「あー・・・いや、思いたくはなかった・・思いたくはなかったけれど・・あのガン=カタの計算式を見てもしかしたらとは・・予測していた。」
「!・・朔・・」
ほっと安堵したような表情を浮かべた要だったがそれを朔が見逃すわけもなく直ぐに黒い笑みを浮かべて要に詰め寄った
「で?要はどの程度知ってるの?」
「え」
「あの式が書けたと言うことは私の心配を他所にもうデウスロイドやマキナロイドの知識があるという事だよね?」
「あの、朔さん?」
「私はそんな事少しも知らなかったのだけれど」
「いや、あの」
「どこで、何を、どの程度、知った?」
表情は笑顔だが明らかに怒気を纏わせている朔に要は冷や汗をながしたまま小さく「ゴメンナサイ」と呟くしかできなかった。その様子を苦笑いで見ていた霧島に美琴がぽつりとつぶやく
「これで口実はできた。」
「口実?」
霧島の言葉に美琴は笑みを浮かべる
「ーーー 海市蜃楼本体を潰す正当な理由ですよ」
美琴の言葉に霧島が目を見開くが、美琴はさらに言葉を続ける
「この新型兵器を万が一増産されるような事があれば確実に困るのは日本・・ひいては大和独立党、そしてヤタガラスです。だからこそ、今此処で〝敵の息の根〟を止める」
「美琴さん・・・・」
「幸い・・明日から一週間。現在のネオチャイナの政治を裏から取り仕切っている党の代表と、海市蜃楼のトップが横浜に滞在すると言う情報も得ています」
笑みを浮かべ、美琴は背後に控えるツヴァイ、そしてアルファに声をかけた
「叩き潰すには絶好の機会でしょ。」




